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日本計量新報 2008年10月5日 (2743号)

モノを造る目的に適合した計り方をすることこそが大事だ

モノ造りとサービスにとって、設備や労働力と同様に、計測の行為や計測の仕組みは費用の一部を形成するから、計測はコストである。競争相手より安い費用でモノ(商品)の性能やサービスの確かさを実現して、同じ価格で同じ量を販売すれば収益に差が出る。
 計るといっても、同じモノを造っても計る要素が異なることが多い。タイルを造るのに、焼き方、素材の寸法の取り方など様々な実験をして製造工程を設計したある企業のタイルは、焼き上がったときの寸法の均一性が高かった。その他の要素も含めてこの企業が製造するタイルは優秀であった。これは統計理論や確率論などを応用し、実験をしてタイルの製造方法と製造工程を設計した成果であって、それまでのモノ造りの常識をくつがえした。
 自然の四季の移ろいと山と川、そして草木と花の生育は自然が与えた条件に対応したものである。春に咲く花、夏に咲く花、秋に咲く花、冬に咲く花は決まっていて、自然の条件に変化があると秋に咲く花が春に咲くなどの狂い咲きが生じる。工業などの方法は自然の現象を利用したものであるにもかかわらず、表面的なことにとらわれて、全く逆のとらえ方をしてしまうことがある。
 地球に住んで太陽や宇宙を眺めていると、地球は動かないで太陽ほかの星々が地球の周囲を運行しているように見える。このことは天文観測をしている人々がうすうすと感づいてそれを何となく口にしていたが、地動説を唱えたポーランドの天文学者コペルニクス(1473〜1543年)が57歳のときに書き上げた『天体の回転について』が出版されたのは70歳で、逝去する数時間前であった。
 イギリスの数学者・物理学者で天文学者のニュートン(1642〜1727年)は1687年に『自然哲学の数学的原理(プリンキピア)』を著して、天体の運動を数学的に記述した。その内容は天体の運動を簡単に説明でき、そして天体の運動にもっとも良く適合する法則であった。
 ユダヤ系ドイツ人のアインシュタイン(1879〜1955年)は、1915年に発表した「一般相対性理論」によって、等価原理と相対性原理に基づいて、互いに加速度運動する観測者同士(加速系)を含む全座標系に対して、すべての物理法則が同じ形で成立することを定式化し、万有引力の現象を説明した。
 これに先立つ1905年には「特殊相対性理論」を発表、光速度がすべての観測者に対して不変であることと相対性原理に基づいて、互いに等速運動する観測者同士(慣性系)に対して、電磁気学を含むすべての物理法則が同じ形で成立することを定式化した。この理論によって、時間は観測者によって異なる相対的なものだと認識されるようになった。一般相対性理論によって宇宙は膨張または収縮をしているという結論が得られ、その後、ビッグバン宇宙はまた収縮もあり得ることを予言した。
 アメリカ合衆国の天文学者ハッブル( 1889〜 1953年)は太陽を含む銀河系の外にも銀河が存在することや、それらの銀河からの光が宇宙膨張に伴って赤方偏移していることを発見し、今ある宇宙が膨張途中であることを証明した。
 計れば何かができる、計れば何でもできるということで、つまらないことまで計っていると、そのモノを造る目的に適合しないことがある。造るモノが満足できる性質や性能を持てるようになれば良いのだから、余計な点を計らないでこれを実現することこそが望ましい。幾つかの要素が組み合わさってできる決定的要素の、ある1点を計ればすべてが上手くいくという点を見つけ出していくことこそ計測の極意である。内寸に意味があるのに外寸を緻密に計って制作するなどということを潔癖派はしがちであり、駆け出しの計測屋や素人はこうしたことをやって精力を使い果たす。
 テレビCMでは性能のことを「徹底した品質管理」と表現して、何でも精密にきっちりやっているからその商品は良いんだ、と消費者の過剰要求を満足させようとする。商品の性能や確かさの説明が良くできる言葉がないのでついつい「徹底した品質管理」と言ってしまうしかないのは、この方面の文化の貧困さを物語っている。
 計ることには目的がある。その目的が手近で身近なモノとしての商品を造ることであれば、計測は目的に沿っていることが求められる。
 イギリスの天文学者ハレー(1656〜1742年)は、1718年にシリウス、アルクトゥルス、アルデバランの三つの恒星の位置が2000年前につくられたヒッパルコスのカタログからずれていることを見つけて、恒星が天空に固定されていないことを確認した。
 イギリスにはカモメの卵の殻の厚さを測り続けていた人がいて、DDTによる環境汚染の進行につれて殻の厚さが薄くなることを関連付けた。卵の殻の厚さの計測はDDTによる環境汚染を探ることを目的にしていた訳ではないが、結果的にその関連を説明することになった。
 シーボルトが採集した動植物と、専門家を雇って描かせたスケッチや記録は、江戸時代の日本の自然の記録になった。何のためにそれをするのかということが分かりにくく、説明もし難いのが基礎科学である。
 これに対して、モノ造りとサービスの提供のための計測は徹底して目的に沿っていることが重要だから、それを達成するために数学、統計学を含めてあらゆる科学を動員して練られることが大事である。
 品質工学はそうした手法を見つけ出し定式化し法則化し、体系化する技術分野である。


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