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日本計量新報 2009年1月1日 (2755号)

品質工学の創始者田口玄一氏の言葉「計ってはならない」に喝采

1968(昭和43年)頃にはバスの車掌さんという職業があって、東京ではこれより3年後くらいまで路面電車が渋谷や新宿でも走っていた。バスがワンマン方式になって車掌さんという職業はなくなった。路面電車は文化遺産として残されている。鉄道の改札には改札員がいて暇をもてあますとはさみをカチャカチャ鳴らしたりくるりと回転させて遊んでいた。ピーマンを同じ目方で計り取るための自動組み合わせハカリは、組み合わせ作業のための人手を不要にした。部品の個数を計る計数ハカリは、電子方式になって精密さと確度を増すことによって、部品などの計数作業を不要にし、そのための人員を削減することになった。真空管を大量に配列して作動していたコンピュータやその他の電子機器はワンチップの演算装置が役目を果たすようになり、その価格は破格に安い。機械その他によって省かれてしまった作業や労働、そして高効率の機械への改善によって人手が大幅に省かれ、あるいはその作業の価格がとんでもなく安くなってしまう。
 北朝鮮を秘密撮影した映像では、モノを運ぶ道具としてリヤカーが用いられている。経済困難と技術革新がないため、機械化が消滅している。軍事パレードでも戦車は走らない。
 日本における技術革新の経験は、それまで行われていた作業が省かれることの連続である。機械による自動加工、経理用パソコンによる帳簿付けなどがそれを物語る。出版に関しては、手書き原稿から活字を拾う作業がなくなった。印刷部門で行われていた原稿入稿から印刷までの作業は、編集部門や個人のオフィスあるいはパソコンそのもので行うようになった。パソコンは新聞、出版、印刷物の制作作業を印刷屋さんから取り上げてしまった。簡便な印刷なら家庭用のプリンターで行ってしまう。作業工程の中間が省かれたり、場合によっては全部が省かれてしまう。海底ケーブルによる通信や砂漠に張られたケーブルは衛星との通信で用途を減じている。電力はソーラー発電や水素を用いた発電機で代用されることが進むことになる。
 経済の規模ということがあり、その国で創り出されたサービスや財や取引の1年間の合計が、国内総生産(GDP:Gross Domestic Product)である。日本では福祉方面を中心にボランティア活動の量が増えているのに、こうした活動は国内総生産には計上されない。家事労働も同様である。クリーニング屋さんに出した洗濯はクリーニング屋さんの活動として国内総生産にカウントされるが、自分で洗濯機を回しているとそれは無計上となる。日曜大工(ドゥーイット・ユアセルフ)や週末の菜園作業も無計上である。自分で車を洗うと無計上でガソリンスタンドが洗車するとカウントする。福祉その他のボランティア活動を国内総生産(GDP)にカウントすると経済の規模は大きく見えるようになる。
 かつては国内総生産にカウントされていた作業が、技術革新や各種の改善改良によって省かれるようになると、これは当然のこととして対象外になる。同じ作業をするのに改良された機械を用いるとその費用は大きく削減されるのが普通である。そのようなことで技術革新や改善改良は国内総生産(GDP)を伸ばすようには必ずしも作用しない。そして、人口が減り続け、場合によっては5千万人以下になる日本では、国内総生産(GDP)は今後も伸張しないだろう。GDPが減り続けるとそれはデフレと決め付けられるが、「GDP現象=デフレ」という図式とそれにもとづく思い込みや観念を払拭しておかなくてはならない。
 計量計測機器が自動化機械として発展をとげると、人手が大きく省かれる。計量計測機器の従来統計を見ると、ハカリ産業など多くの部門では、生産額はこの10年間伸びは止まったままである。この10年間にこれら機械によって省かれた作業や労働や工程の規模は極めて大きい。自動化機械がGDPを押し下げるように作用していることは明らかだ。
 品質工学は、その基礎となる計測に関して、数学や統計学を利用することで、実際には計らなくても計ったのと同じような結果を出すことを実現している。品質の設計、計測の設計、製造工程の設計に関して最適設計を求めるということは、「徹底した品質管理を行う」ことではなく、むしろ工程の徹底した簡素化であり、出来上がる製品やサービスには、顧客が満足する性能や品質といった内容を徹底して盛り込むことである。
 「計ってはならない」ことは、自動組み合わせハカリや計数ハカリが示している。人がいちいち計っていた作業は機械がやるので「人は」「計ってはならない」ということの見本である。
 品質工学は、その創始者でもある田口玄一氏の功績を讃えて、別名「タグチメソッド」とも呼ばれている。その田口玄一氏が発言した「計ってはならない」という言葉に喝采を送る。


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