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日本計量新報 2009年1月11日 (2756号)

当たり前のことが工夫次第で新しい需要や市場を呼び出す

2009年の1月1日午前8時59分59秒(世界時では12月31日の最終秒)の次に、1秒が挿入された(=うるう秒)。
 地球の自転は一定ではない。そして太陽を回る周回軌道も一定ではない。月と地球との関係そのほかの事柄によって地球は太陽の回りを同じ時間で周回しない。人は1年を地球が太陽を1周回することと決めているので、何年かの間に時間と周回とに僅かなズレが生じ、冬至、夏至などの到来にも狂いが生じてしまう。このズレを調整するために、1秒を追加して時間と時刻の辻褄(つじつま)を合わせたのである。
 原子時計の精密さは10年ほどの間に一桁以上も向上した。原子時計は長さの精密度とも連動していているので原子時計の精密度が向上することは長さ測定の精密度向上の大きな要素となる。人工衛星を中継点として電波が飛ぶ時間を計測することによって地球上の2地点の距離を測定したり位置を確認することができる。距離測定の正確さは時間測定の正確さである。

 望遠鏡は宇宙創生期の姿に迫っている。ハッブルは1929年に、遠い距離にある銀河ほど遠ざかる速度が速いことを発見した。そのことは宇宙が膨張していることの証拠になった。これに驚いたのはアインシュタインで、ハッブルを訪ねて説明を受けた上で、宇宙は一定であることにするために挿入した宇宙項を撤回した。アインシュタインの一般相対性理論では、宇宙はある一定の大きさにとどまっていられない。宇宙の大きさは時間の経過とは無関係に一定の大きさであるという静的宇宙観をもっていたアインシュタインは一般相対性理論に宇宙項を追加することによって自分の宇宙観を満足させていたのである。
 宇宙の膨張率を正確に測定することを目的の一つとして1990年にNASAがスペースシャトルを使って打ち上げたのが可視光、赤外線、紫外線と幅広い波長域での観測能力をもつハッブル望遠鏡である。
 文部科学省がハワイのマウナケア山につくったすばる望遠鏡は、大きな一枚鏡の反射望遠鏡によって遠くにある星を見ることができる、優れた能力を備えている。100億光年という遠くの銀河を見ることは、100億光年昔の宇宙を見ることと同じである。宇宙の創生は140億年とか150億年とか153億年の昔ということになっていて、すばる望遠鏡は100億年を超えてその先の銀河の観測に成功している。すばる望遠鏡の直径8メートルほどの巨大な一枚鏡が星を追いかけて上を向いたり下を向いたり横に動いたりするたびに歪もうとする鏡を歪ませないために、261本のつっかえ棒を用いて補正している。このつっかえ棒はアクチュエータと呼ばれているが、ロボットアームと同じと考えてもいい。上を向いたり下を向いたり横を向いたりするたびにつっかえ棒にかかる荷重の変動に対応する自動調整のシステムが組み込まれている。この補正の仕組みの基本要素がハカリを構成する荷重計あるいは質量計である。質量計あるいは荷重計の精密度は1グラムの一円硬貨を千倍に分解することなどごく普通に行うことができ、それを1万倍にも10万倍にも分解することができる。100万倍の分解能をもつ質量計もある。求められる精密さを安定的に実現することができる荷重センサーがすばる望遠鏡のロボットアームに取り付けられて機能を全うしている。

 質量計の分解能が安定的に高いことからそれを応用してさまざまな機器あるいは測定器がつくられている。1円硬貨を千個計っても一個の間違いも犯さないハカリは当たり前に存在する。1万分の1あるいは10万分の1の分解能をもつハカリはごく普通に売られているから当然である。
 そのようなハカリの機能を用いてお金をドーンと計る景気の良いことが行われている。コンビニエンスストアのレジで売上げの集計の確認をするのにハカリを使ってお金を勘定するのだ。1万円、5千円、2千円、千円のお札をハカリに載せてそれぞれ幾らあるか数える。硬貨も5百円、百円、50円、10円、1円を専用の皿に入れて対応するボタンを押すと間違いなしに計数する。
 このような事実をハカリに詳しい人が伝え聞くと当たり前だと述べることが多い。その当たり前のことが、工夫次第で新しい需要や市場を呼び出すことになるのである。


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