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日本計量新報 2009年4月19日 (2770号)

物理学と計量技術分野で活躍した芝亀吉、米田麟吉ら歴史人物をファイルしたい

「キャブレターがブルンブルンと震える」と書いただけでは何のことだかわかりにくいが、インターネットのブログに掲載されているエッセーの一節である。現在ではグーグルなどの検索エンジンは、単語だけでなく、文節または文章を使って検索をすることができる。このような文章の一節を含むエッセーが検索されるのである。「キャブレターがブルンブルンと震える」というのは古い自動車かオートバイに関するエッセーのなかの一文である。このエッセーを簡便型のインターネットwebサイトであるブログに掲載すると、翌日には検索でヒットした。検索でヒットするということは、このエッセーは、日本中、あるいは言語の壁はあるが世界中の多くの人に読まれる機会があるということである。ここにインターネットの特徴がある。コメントなどを通じて、記事やエッセーなどのコンテンツに対する反響が、リアルタイムに近い形ですぐわかるのも特徴である。
 新聞や雑誌などの、いわゆる紙媒体との性質の違いがそこにある。たとえば、『日本計量新報』紙上に、計測技術を盛り込んだ品質工学の手法による地震の予測実験を始めた矢野宏氏(品質工学会会長)の報告を掲載したが、感想や意見といった直接の反響は、それほど多いものではなかった。
 インターネットと紙媒体では、反響の基礎となる閲覧者の数、範囲が比較にならないほど異なる。インターネットの閲覧者は事実上無限大ともいえるのに対して、紙媒体の場合は最大でも数百万部である。また、ワンクリックで気軽に意見や感想が書き込めるブログなどと比べて、紙媒体に掲載された記事や文章に対する反響は、投書や電話、FAXの送付など、自らの積極的な働きかけを必要とするだけに、顕在化傾向は弱いといえる。1つの意見が顕在化すれば、その背後には同じ意見が30倍から50倍は存在するといわれるゆえんである。
 この機会に、情報発信あるいはニュース報道とその広がり、さらに反応の関係を調査し考察することにした。

 ニュースも文章の形式をとり、個々人の手記も文章の形式をとり、文字になっていることに違いはない。その文字が個人の日記帳に万年筆で書かれている限りにおいては、世の中への情報発信はされない。世の中への情報発信を目的にニュースを掲載した『日本計量新報』紙面の情報発信力は、インターネットと比較すれば微々たるものである。『日本計量新報』の新聞紙面(ニュースペーパー)を日本人口の半分が読んでいるわけではないから反応の程度は知れており、「矢野宏先生の地震予測の実験研究の記事を興味深く読みました」という直接的な応答が少なかったのも無理はないと編集部では自ら慰(なぐさ)め、その一方で「読者は矢野先生はなかなかよく頑張っている、素晴らしい、と思っていることも間違いないことである」と考えているのである。
 難しい内容について時間をかけ頭を働かせて取材し、記事にしても、そのことが世の中になかなか周知されず、一方「キャブレターがブルンブルンと震える」という日記を書いてこれをブログに掲載すれば、web検索をかけると情報として登場し、内容を知ることができる。
 同じようにwebサイトに情報が掲載されていても、検索されやすい情報と検索されにくい情報がある。検索されにくい情報は、PDFファイル形式でwebサイトに掲載されている場合が多い。『日本計量新報』に掲載された矢野宏氏の地震予測の研究は、「日本計量新報全紙面」としてwebサイトに掲載され、紙媒体の『日本計量新報』に掲載されたのと同じレイアウトで電子版として閲覧できるようになっている。掲載の形式はPDFファイルである。HTMLファイルとPDFファイルの検索における違いはどこから生じるのか。
 PDFファイルは相手のコンピュータの機種や環境によらず、オリジナル文書のイメージをかなりの程度正確に再生することができるファイル形式であり、異なる環境間におけるファイルの受け渡しや、インターネットのwebサイトに文書などを掲載するのに便利である。
 一方でインターネットでの検索に引っかかりにくいことがPDFファイルの弱点であった。
 現在はグーグルやヤフーなどの検索エンジンで、PDFファイルを検索することができるが、完全ではなく制限もある。たとえばグーグルデスクトップでは、検索できないファイルとして「クリアテキストデータまたは透明テキストデータを含むPDFファイル」「スキャンした画像を含むPDFファイル」「暗号化またはパスワードで保護された PDF ファイル」があげられている。
 検索で見つけられなければ情報がないのと同じことになる。このことは会員向けなどの隠された情報が、サイト内の検索プログラムなどを除き検索の対象とならないのと同じである。
 PDFファイルは、異なる環境の間での情報のやりとりや、オリジナル文書のレイアウトを保ったままの保存などに便利なファイル形式であり、今後もたくさんの情報がPDFファイルで作成されることが予想されるが、外に向かって大いに発信し広報したい情報の場合は、PDFファイルの弱点を踏まえた活用が必要である。現時点ではまだ、広く広報したい情報は、検索に制限がないHTMLファイルなどで公表するのが望ましい。
 一所懸命働いてもその目的とする広報が用をなさないことになれば、目的実現の観点からは、不都合である。目的実現に費やす努力は物事の性質とよく融合させないと、働きが大きく減損し、場合によってはその働きを無にする。

 理学と工学分野の歴史人物の調査をして米田麟吉、芝亀吉、小口太郎の三氏の検索をしたところ、小口太郎氏はウィキペディア(Wikipedia、web上にフリーの百科事典を作るプロジェクト)に記載があり、旧計量研究所に在籍した米田麟吉氏は『日本計量新報』のwebサイトに掲載している、蓑輪善蔵氏の「私の履歴書」と齊藤勝夫氏の「私の履歴書」のなかに登場していることがわかる。熱学の大御所で東大教授の芝亀吉氏は計量管理協会が発行した図書の著者などとして登場した。小口太郎は1919(大正8)年、東京帝国大学理学部物理学科に入学しており、当時1学年20名か30名であった理学部学生の同級生として芝亀吉、米田麟吉の両氏がいた。
 小口太郎氏は大学卒業後に同大学航空研究所に所属して、電信電話に関する発明をしているが、27歳で死去している。現在では小口太郎の名前は科学者としての業績よりも、三高の水上部員時代に作詞した「琵琶湖周航の歌」で知られており、生家のある長野県岡谷市の諏訪湖畔には銅像が建っている。
 物理学や計量技術ならびに計量行政の分野で大きな業績をあげている芝亀吉氏、米田麟吉氏ほかの人々が、ウィキペディアではなくとも何らかの形でweb上に登場するように、関係する人々が協力して人物紹介の文書を作成し、インターネット上に掲載(ファイル)することができれば、世の中のために大いに役立つ。

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