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日本計量新報 2009年4月26日 (2771号)

ハカリの診断機能付加と定期検査の要不要

その計量器が正しいか正しくないかを自己診断して、正しくなければ機能を停止する仕組みを組み込んだものを取引・証明用の計量器とすることは実現できる。ハカリ(はかり・質量計)に限っていえばこれを実現できる技術的要素が整いつつある。ハカリのなかによく計られた校正用かつ自己検定用の「分銅」を一つ、あるいは幾つかの「組分銅」として組み込んで、始動時と終了時にこの「分銅」とハカリの動作とを比較して、そのハカリの正常と異常を検証して是非を決めるのである。すでに校正用分銅内蔵型の電子式の「天びん」は、市場に供給されている。信頼性の面ではとくに受けが良く、技術としても確立された状態にある。電子式の天びんやハカリの荷重検出センサーの計測の精密度と安定性など性能向上が進行している。手を抜かずに設計しさえすればハカリの信頼性は高い。
 電子ハカリの荷重センサーの主なものとして、電気抵抗線式、電磁力平衡式、金属音叉式、振動式、静電容量式などがある。ロードセル式と呼ばれている電気抵抗線式は簡潔性に秀でているため、ハカリの荷重センサーとして市場に供給されているハカリの80%ほどを占有している。電磁力平衡式は手の込んだ仕組みになっていて、精密測定に適した構造に設計されている。金属音叉式は音叉構造に工夫が凝らされ、壊れる要素を極度に小さくしていることなどから長期安定性が特別に優れている。測定の精密度も電気抵抗線式よりも上位にあり、電磁力平衡式に迫っている。
 取引・証明に用いられるハカリのうちの幾つかは、何らかの理由によって検定を受けなくて良いことになっている。その理由の一つとして、精密でありすぎるから既存の社会設備では検定ができないということがある。使用中のハカリの性能を確認する定期検査は取引証明に用いられているすべてのハカリが対象になっていて、定期検査の受検義務がハカリ使用者に課せられている。計量制度と連動して地方公共団体の行政組織が設けられており、その人員の過半はハカリの定期検査のためにある。定期検査の実施目的は取引・証明における計量の安全のためにあるのであるから、技術的側面からこの安全の確保が保証されればハカリの定期検査は実施の必要を失う。
 必要のないものは行政機構から省かれるべきであり、技術開発を推し進めることによってハカリの定期検査が不要になること必至である。金属音叉式のハカリに校正用分銅を内蔵させてハカリの質量計測機能を自己診断させることをすれば、それがハカリの定期検査とほぼ同等の作業となる。それは電気抵抗線式や電磁力平衡式(電磁力補償方式)その他の方式でも同じである。自己診断用の分銅をハカリに内蔵させるという構造の追加とマイクロプロセッサの設計など幾つかの追加要素があって、それがハカリ価格を少し押し上げることになる。その費用と定期検査実施のために要する使用者の費用、そして社会資本として営まれている定期検査のための行政組織ほかの費用のことを勘案すると、答えは自ずと出る。
 社会資本の使い方の変更を考慮しながら、技術的な側面に限っては定期検査の実施が不要となるハカリの開発の推進は社会正義の実現に向かう。

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