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日本計量新報 2009年7月12日 (2781号)

躍進企業の規模拡大は計量器産業の発展を倍にする

日本列島に確実な痕跡を残し、その生活と経済の実態を推し量ることができるもっとも古い文化は、縄文である。縄文時代は1万年におよぶ長い年月続いており、この期間の人口の最大推計値は30万人を出ない。この期間に人口は10万人以下に減ったことがあり、これは寒冷化によるものである。
 温暖化期間の縄文海進期、現在の常磐線付近はほとんど海であり、荒川沖などもそうであった。縄文時代の自然の風景は、林の中に隠れて建っている別荘と同じように外からは林としか見えない状況である。畑はあったとしても栗林程度のものであるから、現代の平野部の農村のように水田が広がる風景はなかった。日本全土が森と林に覆われた姿をしていた。自然の恵みに依拠し、栗栽培などわずかの農業によって成り立っているこの方式である限り、人の力によって経済は大きくはならなかった。

 現代の日本にしても人が住居する部分は2割程度であるから、これは先進諸外国とは比べられないくらいに森林度の高い国である。しかし、現代の経済は常に一定の購買力を必要としている。それは総需要ともいうことができ、十分な総需要があって、はじめて利用可能な生産能力を活用することができる。日本の総需要の6割は個人消費であるから、個人消費が健全に発揮される状態になければ経済は円滑に機能しない。総需要と購買力はギャップを伴う。将来の需要を目指して生産設備を増強することや資材を調達することは、企業行動としてなされることであり、これが重層的に実施されると購買力を超えてしまう。好況期におけるこうした投資はときとして投機の様相を呈する。金融が主導となり実際の需要の規模を度外視して実施された投資は、総合してみると投機以外のものではなく、最後には破綻して世界経済は混迷し日本にもこれが影響している。
 08年度計量計測機器産業は1割減で済んだものの、09年度は経済混迷の影響で07年度を基準年にすると2割減になることが予想される。計量計測機器産業は計ってモノを造るという計量工作機械産業であるから、需要動向は工作機械産業とほぼ同じに推移する。
 計量計測機器産業の経済規模を大まとめで把握すると、瞬間的には経済混迷以前の1割減、2割減、3割減になる。それは既存の一定の条件の下においてということであり、企業は大いに変身するから個々の企業がそのようになるということではない。
 ソニーは便宜的ではあっても電気炊飯器の製造から事業を始めた。ヒューレット・パッカードは溶接機をつくり、ボウリング場のセンサーをつくり、フィットネスマシンをつくっていた。それがオシロスコープをつくってコンピュータに進出している。作動変圧器を使って測長器をつくっていた会社が延長技術で質量計(はかり)をつくって大をなしている。カメラをつくっていたこともある計量器の大企業もある。ハカリの製造からはじまって、包装計量器や電子棚札システムほか流通と製造分野のシステム機器を製造してこの分野で世界のトップに躍り出た企業もある。
 新しい需要(ニーズ)をつかむという言い方や新しい価値を創造するという言い方がある。変化する技術と経済社会にあっては、新規の需要分野を開拓したり乗り出したりすることを通じて、企業は発展する。計量計測機器産業に従事する躍進企業の伸び率と伸びた分の売上高の総計は、工業会統計の2倍以上になっている場合もあるから、業種の生産の伸び率と業種に属している企業の伸び率は分離して物事を見ていくことが大事である。
 計量計測機器産業の戦後50年の歴史は企業淘汰の歴史である。地方に多数存立した度量衡販売の事業者では、事業を継続している者よりも廃業した者の方が遙(はる)かに多い。モノサシが竹製のものから樹脂製に変わり、金属製モノサシは打刻式から焼き付け式になって大量生産されるようになったことなどから、事業者は激減した。金属製モノサシの産地であった新潟県三条市の曲尺(かねじゃく)事業者の一部は、家内工業的に金属のしなりなどに特徴ある製品をつくっていたが、新計量法がモノサシの検定制度を廃棄したのち、程なく事業を閉じている。計量法の検定制度が弱小事業者の製品にある種の価値を付加していたことが、事業継続の最後の砦(とりで)となり支えとなっていたのである。計量法からモノサシの検定を除外したことで中学校を出るなり職人修行によって身につけたモノサシの目盛り刻みの技をうち捨てる結果となった。
 以上を確認した上で将来を展望すると、これまでの50年間でおこったことが10年の間におこってしまうということである。電話やラジオやテレビや自動車が普及した速度に対してデジタル革命の旗手であるパソコンやインターネットの普及の速度がその背景にあり、半導体の機能はそれよりも凄(すご)い速度で進むからである。

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