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日本計量新報 2009年7月19日 (2782号)

がんばれ技術者、技術の進歩に終わりはない

自然科学の発展の歴史は、新しい発見、理論の体系化、停滞、停滞を突破する新しい発見、新しい理論の確立という流れを繰り返してきた。
 物質を形づくる基本粒子である素粒子に関する量子論や、その対極にあるとも見える宇宙論の発展の歴史は、そのことを端的に示している。
 極微小領域をあつかう量子論と、極マクロともいうべき事象を扱う宇宙論が、実は一つの物体の裏表ともいうべき関係にあったことも明らかになった。
 アインシュタインが一般相対性理論を発表した頃は、宇宙は始まりも終わりもない完全に静的なものであるととらえられていた。しかし、1929年にエドウィン・ハッブルが、銀河が全ての方向に向かってその距離に比例する速度で後退していることを見つけた(ハッブルの法則)。これは宇宙が膨張していることを示すものだった。
 そして、1946年にガモフが「火の玉宇宙論(ビッグバン宇宙論)」を発表した。ガモフは宇宙の膨張と、原子核物理の最新理論を結びつけて、宇宙は百数十億年前(現在では約137億年前とされている)には、全物質が狭い空間に凝縮した超高温・高密度の状態にあり、そこでのビッグバン(大爆発)が基点になって宇宙の膨張が始まったというものである。ガモフの説は当初奇説扱いされたが、1964年に、ビッグバンの名残である宇宙背景放射が観測されたことにより、正しいことが証明された。その後、佐藤勝彦やアラン・グースのインフレーション宇宙論や膜(ブレーン)宇宙論などが提唱され、宇宙の始まりと進化に関する理論は急速に発展している。2008年には南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏が、対称性の自発的破れの発見(南部)、CP対称性の破れの起源の発見(小林・益川)でノーベル賞を受賞した。2002年には小柴昌俊氏が素粒子ニュートリノの観測による天文学の開拓でノーベル賞を受けている。彼らの業績も宇宙論の発展に大きな貢献をしている。
 これらの研究はいずれも物質を形づくる素粒子に関する研究である。ミクロに関する研究がマクロの研究と密接に関わり、宇宙の始まりと変遷を明らかにする理論を発展させたのである。
 物質を構成する基本要素として「原子」が発見された時には、原子が物質を構成する基本要素とされた。しかし、その後原子は物質のひとつの「中間単位」であることが明らかになった。原子は物質を構成する究極の単位ではなかったのである。原子を構成するものとして「素粒子」が見つかった。そして素粒子の運動は従来のニュートン物理学では説明できなかった。新しい理論が必要とされたのである。それが量子論である。物質の階層の深化が、理論にも質的な転化を求めたのである。益川氏は、クォーク(素粒子の一種)の今後の研究のなかで、さらにその背後にある新しい階層の存在にかかわる問題が提起されてくるだろうと言及している。
 自然科学の発展の歴史を見てきたが、技術開発も基本は同じである。これまでの成果に安んじてこれが究極の物質「原子」だと思ってしまえば、技術はそれ以上発展しない。現在の成果は「中間単位」であると認識することにより、技術は発展するし、これまでも発展してきた。ここで大事なことは「視点」である。自然科学の発展の歴史が示すように、更なる発展のためには、従来成果の発展線の延長ではない発想の質的転換が必要であることが多い。
 技術者には、現状にとらわれない自由な発想で挑戦し、ミクロとマクロ、量子論と宇宙論が結びつくような「革命」が求められている。技術開発の歴史は、限界を突破することによって到達点を中間点、結節点に変え、技術の質をも変えてきた苦闘の歴史である。技術者にパワーを発揮させるためにはトップマネジメントの意識改革が前提になる。この不況を脱出するためには、目先の利益を考えるのではなく、長期的視野で、顧客が欲しい機能を持った製品を開発することが大切である。がんばれ技術者。

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