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日本計量新報 2010年2月7日 (2808号)

モノの質量や形態の精密度は品質の情報に置き換えられる

テレビ放送のニュースを聞いているとそれだけで世の中の状況がわかったつもりになる。新聞報道に接することもテレビと大差はない。大きく踊った一面記事の活字の大きさがニュースの重大さを表しているかのように錯覚する。
 一面記事に登場する経済や国際、その他のニュースは今の時代を静かに流れる重要な基調の一つでしかないのに、最近の例を挙げると、人々はテレビ報道によって喫緊の課題は地球温暖化に歯止めをかけることだという強迫観念を抱かされている。化石燃料を燃やしたら地球がつぶれる。車を動かしたら人は明日にでも死ぬとかのように思っている人が増えている。 結果として、エコカーが自動車メーカーの主力となっている。内燃機関と蓄電池を組み合わせたハイブリッドカーが増える以上にモーターを駆動源とする電気自動車が増える兆候がでている。水素を燃やして蓄電池に蓄えてモーターを回す複雑さよりも蓄電池に蓄えた電力でモーターを回すほうが単純であり実現性が高いからだ。

 今、日本経済と日本の社会はどのようになっているか客観的に考えてみたい。
 国際通貨基金のデータをもとにし算出した全世界GDPに占める日本の割合は世界第2位だが、3位の中国の成長率は大きく、既に抜かれているという話もある。また、インドも経済規模の拡張が続いているので、将来的に抜かれる可能性が高い。
 日本では国を動かすためにお金を使い過ぎて赤字財政に陥っている。これに歯止めをかけなければならない。経済活動が停滞すれば企業業績が悪くなって所得税を納入する企業は大きく減る。企業業績は勤労者の賃金を抑制するので消費は停滞する。停滞した消費は企業業績を下に押し下げるように作用する。それは企業が国に納める税を引き下げる。熟成した社会における人口構造は、かつてのフランスのように釣り鐘型になる。日本はこの現象が急激に現れた。労働人口が減るだけではなく総人口が減っていく。人口減少は消費のための基礎的要件に影響し、国民の平均賃金の低下がつづく今の状況にあっては経済規模の拡張には否定的に作用する。モノをつくってもそれを買う側の力が減じるとモノの値段が下落する。通貨供給量は国内の経済規模の現象に見合った内容になるから、通貨供給量は減少する。このような状況に見合って人の気持ちも委縮する。海外市場も基本的には世界同時不況の影響から脱し切れていない。デフレ経済が日本を覆っている。
 日本では生活にお金が不可欠である。長引く不況は仕事や人間関係、さまざまなストレスを生む。経済的な不安が、年間3万人以上自殺者のでる状況をつくり出している。
 今の日本には駆け込み寺が必要である。生活保護法は現代の駆け込み寺にはなっていない。真面目に働いたら、それに見合った生活ができる社会の仕組みがなければ健全な社会とはいえない。経営が優良な企業と、それに準ずる公務員になった者だけが得するという不公平な社会を改善することだ。

 お金はお金を求めて動きたがる。これまでの金融の体系では、「金融工学」を駆使したサブプライムローンという仕組みで、安全性を装って大量のお金を貸しつけることができた。しかし、そのことが結果として経済破綻を招くことになった。お金を動かすときの危険を予想して回避したはずの金融機関が、結局は危険の計算に失敗して皆がこけてしまった。これが国際的総倒れの金融危機である。
 生産と富の再配分は経済のグローバル化によって地球規模で行われるようになった。中国の繊維産業はアフリカの地に乗り込んで地元の産業を壊している。繊維産業にかかわらず多くの産業で同じようなことが起こる。アフリカの経済は発展の一方で混迷に陥っている。実らない土地、土地から追われた農民、政治の不在などでアフリカには飢餓が広がっている。
 かつてはアメリカ経済に次ぐ規模を誇り、農業大国であったアルゼンチンでは、耕地が輸出用の家畜飼料材料作物の栽培に費やされ、大量の貧困層が発生して餓死者がでている。

かつて、日本経済の主力は製造業であった。ソニーがトランジスタラジオで成功し、トヨタがジャスト・イン・タイム方式の経営手法で世界一の自動車製造業にのし上がり、貿易収支の黒字を実現した。
 昔から、日本人はモノをつくるのに大きな力を注いできた。富岡製糸工場は明治政府が群馬県の富岡につくった近代的絹糸工場である。フランス人の技師家族を大臣並みの待遇で招いて技術を輸入し、これを基に日本の軽工業を築き上げた。製糸工業は織物工業につながり、石炭工業、重工業、化学工業、電機産業、自動車産業などを順次発展させてきた。
 しかし、現在はGDPに占める製造業の比率が低下し、サービス業よりも下位になっている。製造業からサービス業へ、そしてモノづくり産業から知識産業へと、産業の構造は移りつつある。
 計量計測機器産業はというと、他の製造業同様に状況は厳しい。だが、計量計測機器産業は物事を計測して情報化する産業でもあり、サービス業と深く連携している業種でもある。計測値は情報化され、さまざまに利用される。商品の質量(目方、重さなどとしてとらえられることが多い)は情報化されて、価格に変換される。モノの質量や形態の精密度は品質の度合いの情報に置き換えられる。
 例えば、コンビニエンス・ストアの商品は、商品名と価格などがコンピュータに記憶されており、売上金額や売れ筋商品算出のデータとして管理される。このように、電子ハカリを扱っていた企業が、今ではポス・システムの供給企業の重要な一角を占めている。
 日本経済がサービス経済、知識経済に移行していく状況のなか、計量計測産業とは戦略次第で、計測技術と知識を結びつけて発展する余地は十分にある。

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