税収を伸ばすためにタバコの値段を上げることの是非が問われている。 現在、日本のタバコの価格に占める税の割合は、消費税を含めて63%である。20本入りの紙巻きタバコ1箱300円の商品の場合、税額は189円となる。これが、昨年末に閣議決定された税制改正大綱で1本当たりタバコ税が3・5円引き上げられることが固まったことから、今年10月1日からメーカー値上げ分と併せて1箱100円値上がりする予定だ。 これにとどまらず政府や学識者の間では、諸外国と比較して日本の税負担率が低いことなどを理由に、更なるタバコ税の増額を提唱する声が多い。20本入り紙巻きタバコ1箱を1000円にするという大増論まで飛び出し、増収を試算する者もいる。 仮に1箱300円の値段に700円をタバコ税として加算することにした場合に、タバコの売り上げがどのように変動して税収がいくら増えるか、大体の予測はできる。値段を高くすると買う人が減る、値段を安くすると買う人が増える、という需要と供給の曲線によるマーケティング理論がある。この理論だけが経済学の純理論として正しいと、サミュエルソンは皮肉を込めて述べている。 ◇ 誰の発案によるものか、国や行政は時として理解しがたい政策を打ち出すことがある。福田康夫氏は首相時代に二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)削減のため白熱電球の使用を禁じたらいいとテレビカメラの前で発言した。効率は悪くても、現状では、値段の安さや食品が綺麗に見えるというメリットから、白熱電球の需要は確実にある。一国の総理大臣がそのくらいの常識を持たないで国民向けに発言してしまうのは問題だ。こうした政府首脳による思慮深さに欠けた言動は福田康夫氏だけにとどまらないので、日本という国は先行きが不安である。 2008(平成20)年の厚生労働省国民健康栄養調査成人喫煙率調査では、日本人の喫煙率は21・8%で、年々減少している。特に成人男性の喫煙率の減少は著しく、JT(日本たばこ産業)による2009(平成21)年全国たばこ喫煙者率調査では、成人男性の平均喫煙率は38・9%で、ピーク時の1966(昭和41)年の83・7%と比較すると、43年間で44・8ポイントも減少している。 喫煙人口の減少に伴い、タバコの売り上げと税収は減少傾向にある。この状況に追い打ちをかけてタバコ税率を引き上げて価格が高騰すれば、タバコの需要が減少して売り上げも落ち込み、結果として税収の減額をもたらすことは明らかである。 需要と供給の関係を無視してモノの統制と法外な価格の設定がなされれば、アメリカの禁酒法時代と同じような状況が生じる危険性もある。法を犯すリスク以上に、手にするお金の魅力が増すからである。 ◇ 日本社会全体における計量器産業が製造するモノの需要と供給のバランスを考えると、供給が大きく上まわる状況にある。製造装置や資源が枯渇した状況にあった第2次大戦後の日本では、ハカリを含めて日本の計量器産業は製品をつくれば売れる状態にあった。米の収穫期には、農家などがハカリの工場の前に列をなして完成を待っていたこともあった。 高度成長期を境にして、計量器産業は供給過剰の状態に転換した。普通の計量器を普通につくって普通に販売していたのでは駄目な時代になった。ハカリ、圧力計など多くの計量器産業は、需要減少と供給過剰にともなう価格低下に苦しんでいる。 生産能力はあっても需要がないから作れない。購買者が少ないから作る側の際限のない安売り状況が生じている。フィルムカメラがデジタルカメラに置き換えられたように、計量器も新しい技術状況に対応して新しい概念の計量器として市場に対応しなくてはならない。体重を測定する器械を体脂肪などを測定する器械に変更したことで新市場をつくりだしたことは見事であった。 計量器産業を例にとると、製造数の8割は一般家庭用に供給されているが、製造金額でみると5割以上は産業向けの製造装置や合理化のための機械である。モノをつくるうえで品質を向上させたり、生産性を上げたり、苦しい労働場面を機械で置き換えるための商品を開発することによって、計量器産業は時代に即した新たな進歩と発展をしていくことになると期待する。
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