計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2010年2月  7日(2808号)  14日(2809号)  21日(2810号)  28日(2811号)
社説TOP

日本計量新報 2010年2月21日 (2810号)

指定定期検査機関を大事にしないと定期検査は崩壊する

役所がおこなう仕事を民間企業でもおこなうことができる仕組みがある。計量法の規定によるハカリの定期検査を円滑に実施するための「指定定期検査機関」制度も、その一つである。
 この制度は新計量法で定められたもので、検査の効率化を図るため「指定定期検査機関」の指定を受けた組織に定期検査を委託できるようになっている。従来はハカリの定期検査ならびに計量証明検査は計量法の定めによって都道府県ならびに特定市の責任で実施するものであった。
 「指定定期検査機関」の指定対象となっているのは都道府県の計量協会やそれに類する組織がほとんどだが、一部に民間企業もある。
 指定定期検査機関にハカリ全ての検査を実施させている地区や一部のみの地区等、検査実施にはさまざまな形態があるが、対象となるハカリの5割から7割以上が、指定定期検査機関による定期検査ならびに計量証明検査を受けていると考えられる。一部の機関は、皮革面積計も対象としている。
 都道府県ならびに特定市の指定定期検査機関の一覧を本紙<CODE NUMTYPE=SG NUM=6B1D>面で掲載している。

都道府県が計量法に基づいて実施する定期検査ならびに計量証明検査の主な実務作業は、役所が対象となるハカリの使用場所を台帳に記帳するなどの基礎的な作業をしっかりとおこない、その上で当該ハカリを検査するというものである。都道府県のなかに特定市があれば、その特定市が検査の実施主体となる。
 かつて、ある特定市が定期検査をしていなかったことがある。形の上では役所のなかに組織ができていても人員が少なすぎたり、その人員にハカリの定期検査を実施するという意識が欠如してしまうと、役所に実施義務があるハカリの定期検査などがそっくり抜け落ちてしまうのである。
 この特定市はこうした実態が発覚した後に特定市を返上した。その特定市が担うべきハカリの検査は、県が実施することになった。
 特定市によるハカリの定期検査実施の業務怠慢は、一部の県において現在も存在することが、関係者から指摘されている。
 そのようなことがなぜ起きるのか。計量行政に従事する職員に計量法の知識が欠けていることが最大の要因である。教育と訓練を十分に受けない計量行政職員が多いのが実態である。
 加えて、都道府県の歳入が減り続けていることが社会的・経済的背景にある。都道府県は税収が不足しているために、計量行政を確実に実施するための体制を整備できない。設備はあっても人員がいない、そして人員が行動する費用が付けられていないといった状況である。さらに、計量行政の実施主体である都道府県の財務担当者が計量行政を重要視せず、費用を配分しない。
 また、議会では選挙を意識した場当たり的な政策が打ち出され、それに伴う行政事務が増えるために、計量行政のような基礎的行政事務実施の経費や労力が圧迫される。
 ハカリの定期検査の実施には、費用を削減する要素がほとんどない。だからこそ、都道府県職員や特定市の職員による費用削減は実現しなかった。
 計量協会や民間企業などを指定してハカリの定期検査を実施させれば費用を減らせるのだろうか。費用が減る要素は人件費だけである。地方公務員より低い賃金で指定定期検査職員を使うことになる。働きに応じて報酬が割り当てられることはよいとしても、指定定期検査職員を不当に安い賃金で働かせるという発想は、傲慢であり下品でもある。
 都道府県が指定定期検査機関を下請的組織と考え不当な扱いをするようなことが続けば、日本のハカリの定期検査は間違いなく崩壊する。それは同時に、日本のものづくり産業の衰退、ひいては経済の衰退をもたらし、結果として社会制度設計と運営の破綻をもたらす。
 この20年ほど、日本経済の規模が拡大せず社会の充実を図れずに苦悩している背景として、国が行政の骨格をつくることを怠る一方で、国民からの受けを狙った政策を優先し、計量行政といった社会を支える土台部分の構築・強化に力を注いでこなかったことが挙げられる。

 日本の基盤を築くため、指定定期検査機関は運営費を確保し健全な体制を維持していく必要がある。そのために、ひるむことなく正々堂々と予算請求をして運営費を確保しなくてはならない。指定し監督する側の計量行政機関は、自分達がやってきたことを基礎に指定定期検査機関の業務に支障が生じないよう配慮しなければならない。
 真摯に仕事をすれば、達成感を含めた喜びが生まれるものである。指定定期検査機関とその職員がその業務遂行に喜びを感じ、将来への希望も持てるような制度運営をつくりあげることが大事である。 

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次本文一覧
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.