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日本計量新報 2011年10月30日 (2891号)
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ムーアの法則は計量計測機器産業に当てはまるか
現在の日本のカメラ市場は、デジタルカメラが占有率のほとんどを占めている。デジタルカメラでの画像処理では、画像データを自宅で加工したりプリントすることが可能である。フィルムカメラより現像代を大幅に削減できるなど、デジタルカメラが持つ機能は魅力的だ。今やフィルムカメラを利用するのは、写真で生計を立てるプロ写真家や愛好家といった一部の人のみである。
デジタルカメラとは、撮像素子で撮影した画像をデジタルデータとして記録するカメラである。光学信号である画像を電気に変換する撮像素子(光学センサ)には、CCDイメージセンサーかCMOSイメージセンサーが用いられる。当初は多くの機種にCCD方式が採用されていたが、CMOS方式が低消費電力性から優位となって開発が進み、一眼レフカメラはほとんどがCMOS方式となった。技術開発が進み、高機能な駆動回路をセンサー側に載せていることなどによって、連続撮影の機能はフィルムカメラの最上機種を超えた。売り出されたばかりの頃と今の製品を比較すると、品質は著しく向上したうえ安価になっている。
2010年のデジタルカメラの世界シェアは、上位から順にキヤノン19・0%、ソニー17・9%、ニコン12・6%であり、サムスン11・1%、パナソニック7・6%となっている(IDCジャパン調査)。コニカミノルタの後を継いだソニーはニコンを抜いてトップのキヤノンに肉薄している。他の電子機器メーカーも徐々に上位に迫っている。
昔のカメラは、ストロボ発光用のリード線(電線)が入っている以外は機械仕掛けで、映像をフィルムに記録していた。時代の流れと共に、機構は機械式から電子式に、記録方式はフィルムからデジタルセンサーに移行し、高機能化を追求する技術開発が熾烈になった。旧来のカメラメーカー数社がデジタルカメラ市場から撤退し、電子機器技術をもつ企業が製造を担いつつある。その証明が電子機器メーカーのデジタルカメラ世界シェア伸張である。
映像素子からの信号を記憶するデジタルカメラの主要部品が半導体である。世界最大の半導体メーカー、インテル社の創設者の一人であるゴードン・ムーア博士は、1965年に経験則として「半導体の集積密度は18〜24ヶ月で倍増する」と述べた。これが言葉通りに推移したので、ムーアの法則と呼ばれるようになった。半導体の性能は指数関数的に向上する。実際の集積密度の向上速度は多少は鈍化しているものの、集積密度を性能向上としてとらえると、ムーアの法則は現在でも成立しており、今後の半導体の性能向上を予測する指標となっている。デジタルカメラ産業の動向は、ムーアの法則を反映しているといえる。
では、計量計測機器産業においてもムーアの法則は当てはまるだろうか。
現在、純粋に機械仕掛けの機器は非常に少なくなっていて、総生産金額との対比では4%に達していない。また、計量計測センサーの電子化が進行しデータ処理に半導体チップを用いるようになっている。
しかし、産業方面などの業務用装置に関して言えば、計量計測電子センサーと半導体が製品全体に占める割合はそれほど大きくなく、今のところ、ムーアの法則とは異なる形の発展を遂げている。計量計測機器産業は生産数量としてみると一般向けの製品が圧倒的に多いが、生産金額では産業設備関連の機器が5割を超えているのである。
最先端の技術を取り入れることは市場を拡大する上で必要だが、競争が激しく価格が限りなく低下する分野で仕事をすることは効率がよくない。過去の経験や認識の蓄積から、優位に業績のあがる事業を慎重に選択し推進している計量計測機器企業は多い
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