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日本計量新報 2012年10月28日 (2939号)

被災後1年半、漁港のハカリが復活劇を象徴

被災後1年半が経過して釜石市の親元を訪れた人は、被災直後にきたときと今と何も変わっていないのには驚き、落胆もしたとNHKテレビの取材に応じていた。この夏に被災地を訪れた人の多くは同じ感想を抱くようであり、被災地の概観は被災1カ月後と変わらない状況である。地震と津波と連動する火事によって破壊された町並みは、家などの破損物が撤去され、散乱した流出物が取り除かれただけであり、2度目の盆を迎えた街には人が少なく、走る車は他所からきた輸送車程度である。テレビでは復興予算の執行がこれから始まり、復興の槌音が響き出す、と報道しているが、これは関係する役所の側にたったものであり、真夏の炎天下に小さな応急住宅に閉じ込められ、働きたくても仕事はなく、3度の食事もままならない被災者は少なくない。国会議員が被災地の三陸沿岸をつぶさに見て回ることをすれば、被災からの復興に政治が遅れたり機能しないといった状況が少しでも改善されると思われるが、国会議員の多くは被災地の現状認識が疎い。このことは福島原発事故にそのまま当てはまる。
 日本列島は海に囲まれていて、津波に襲われないという海岸線の平地はないから、そうした場所に工場などがあれば津波被災の危険区域ということになる。しかし現在ある工場等の施設を津波を恐れて急に移設するということはできないことであるから、これから施設をつくるときには津波がこない高台を選ぶことになるかもしれないが、そうすると海辺の平地、あるいは平野の利用度が下がることになるから、それは困ったことである。富山県や新潟県には海辺に工業施設が連なっており、東京や神奈川でも京浜コンビナートと呼ばれる工業施設が立地する。
 三陸沿岸の被災地では住居や工場などの施設は無造作に海辺の平地に建設することができない。なくなったものを再建するのだから、この際は山を削ったりしてつくった高台に移転することになる。新潟県長岡市の寺泊漁(てらどまり)港では海辺の作業場と住居とを分離している地区があるので、三陸の漁港もこの方式に倣うことになるのではないか。寺泊漁港の場合には海と高台が接近しているからできることであるが、この距離が遠い場合には移動の便などを考慮することになる。津波対策として安全を確保することは容易なことではない。津波がくれば施設を放棄することを考えた建て方などをすることもしかたがない。防波堤で津波からの被害を防御することには限界があることが判明しているからである。防波堤も大事だが津波がこない高台に住居や施設を置くことの有効性がまさることも考えられる。
 地震に対応する建築基準に関する法令があり、決められたこととして耐震対策をさかんに説く報道があり、耐震偽装されたビルの取り壊しなどもなされた。決められたことは決められた通りにするという遵法の考えはよいとしても、震災時の津波被害に対する科学とその知識の対応、そして建築基準法にみあう津波対策法の欠如を問題にしなくてはならない。法律は守らなくてはならないが、それだけでは、物事の安全は確保できないことを震災は知らしめた。海辺にあるガソリンスタンドにはガソリンメーターが設置され、施設や住居には水道メーターとガスメーターと電力量計が設置される。この震災でもっとも多くの死者をだした宮城県石巻市の流出家屋に付随した水道メーターとガスメーターと電力量計の壊れて痛ましいさまが、皮肉にも計量器の存在を顕わにしていた。その一方で復興の足取りを鮮やかに示す岩手県の山田漁港ではデジタル式の電子台ハカリが水揚げされたブリを計るのに使われていた。

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