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日本計量新報 2013年2月3日 (2951号)

他人は責めるだけだから自らを褒めよ

数学者の藤原正彦氏はニュートンなどの天才数学者の伝記を書くために生まれた町を訪れ、そこに美しい自然や寺院などがあることを確認し、それまで持っていた持論を強化して、天才の素地をもつ数学者に自然が美意識を与えることによって天才数学者が生まれるのだという説を唱えている。天才数学者になるためには数学ができるだけではだめで、数学の世界で大きな成果をあげようという野心を抱くことがなければならないという。天才と呼ばれた人が作り出した理論は知識として次の世代に引き継がれるから、そうした知識を持っていることが新しい理論をうみだすために欠かせないし、抱いた野心を実現するという執着心がなければならない。そこには論理立てをする能力も備わっていることが必要だという。野心、知識、執念、論理性、美意識があってこそ画期的な数学の新理論が作り出される。養老孟司はその著書の『ガクモンの壁』などで「脳がよろこぶようなことをしていると、能力が開発される」と述べている。アインシュタインは「どうして、自分を責めるんですか。他人がちゃんと必要なときに責めてくれるんだから、いいじゃないですか」と言っている。
 海軍大将山本五十六が残したとされる言葉に「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ」がある。また「話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず」「やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず」もある。日記には「博打をしないような男はろくなものじゃない」「人は神ではない。誤りをするというところに人間味がある」「苦しいこともあるだろう。云い度いこともあるだろう。不満なこともあるだろう。腹の立つこともあるだろう。泣き度いこともあるだろう。これらをじつとこらえてゆくのが男の修行である」があるという。中国の古典『菜根譚(さいこんたん)』に由来すると思われる言葉が少なくない。山本五十六の言葉とされる「言って聞かせて」は山本の性格から事実ではないだろうというのが、小説『山本五十六』を書いた半藤一利氏の説である。「自分なら言われなくったってちゃんとやるのに、普通の人は言っても動かない」というのが山本五十六が考えていたことではないか、という。
 世の中にはよく流通している流行言葉のようになっている言葉が多くあり、こうした言葉だけを使ってテレビのインタビューを受けている人は、一見格好良くしゃべっているようにみえていても、その内実は薄いのではないか。言葉と言葉がつながって組みあわされば思想に似たものになる。今の時代の人は思想がないようにみえていても、組みあわされた言葉によって思想体系に絡められている。念仏は仏教思想の大事な部分を文字にしてありそれを声を出して読み上げる。たえず言い聞かせて忘れないようにする方法である。いろいろな計画、いろいろな思いなどは、反復して文字にし、声を出して読み上げることをするうちに、それが思想のような内容をもつようになり、それをなすにあたっては執着心をわきおこすと考えられる。たえず自分に言って聞かせて、いつでもそのことを考えて忘れないようにするように、自分を仕向けることは重要である。自分が考えていること、やろうとしていることが少しできたら、うまくいった大したものだ、と自分を褒めたらいい。そしてこの思いや計画をもっと前にすすめる。楽しいことをしていると脳はよろこぶ。褒められると脳はうれしがる。すると能力がやしなわれる。自らよろこぶことは大事である。なぜならアインシュタインが言うように「他人は責める」からである。

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