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日本計量新報 2013年9月8日 (2979号)

原子力発電は本質的に安全な発電方式ではない

東京電力福島第一原子力発電所の原子炉の暴走を止めるために大きな役割をした事故当時の福島第一原子力発電所の所長、吉田昌郎(よしだまさお)氏が2013年7月9日、病気のために58歳で死去した。海水によって原子炉圧力容器を冷やす応急的な措置を施し、また原子炉圧力容器を爆発させないために弁を開放することなどを指揮をしてこれを成し遂げたのが吉田昌郎氏であった。全電源喪失している困難な状況下にあって電動で動かしていた弁を手で動かして蒸気圧を開放するベント、そして冷却水路に海水を用いて原子炉を冷す作業は、放射線濃度の異常な高まりのなか決死隊の編成によってなしとげられた。
 原子炉圧力容器、原子炉格納容器、その下部にある圧力制御室を覆う原子炉建屋が、水素爆発によって壊れたあとは、とにかく原子炉を冷やすということで吹き飛んだ建屋の天井から海水を投入して原子炉を冷やした。自衛隊のヘリコプターや消防車、自治体の消防車が代わる代わるこれにあたった。これらの作業が万全であったかどうかは別にして、現場のおかれた状況にあっては最上に近いものであった。緊急時の炉心冷却には真水がなければ海水で代用することを即決するのが当然であったのに、東電本社は海水を用いると設備が使えなくなること、緊急事態を菅直人首相(当時)が理解できなかったために、この作業が遅れて燃料棒の溶解がおこり、その影響で原子炉建屋が水素爆発で吹っ飛び、放射性物質が大量に飛散した。
 事故発生後の吉田昌郎氏と原子炉運転員たちの英雄的行動は素直に讃えられるべきである。しかし東京電力福島第一原子力発電所の安全ということでは、電源ほかの予備など二重三重の構造は、大地震と大津波に対しては予備としての用をなさなかった。静岡県浜岡原発の地震と津波への不備を指摘した地震学者の文書に対して、静岡県が原子力安全委員会の斑目春樹委員長(当時)に検証を求めたところ、静岡県内の原子力発電所は二重三重に安全のためのしくみをつくっているから大丈夫であるという文書を提出している。斑目氏が述べた二重三重の安全は意味をなさない安全の構造であり、福島第一原子力発電所の事故がこれを示すことになる。吉田昌郎氏と原子炉運転員たちの決死の行動はある与えられた条件下でのことであった。闘いに勝つという戦略抜きで特攻をおこなったあの大戦の行動と同じ性質のものに思える。水力発電と火力発電によって日本の電力需要を賄える現状を原子力発電がなければ停電すると脅かして、原子力発電に固執するのはなぜなのだろう。福島に集中的に降り注いだ放射性物質がすぐにはなくならないのだから、原子力発電は本質的に安全な発電方式ではない。
 東京電力福島第一原子力発電所の事故に対応する菅直人首相と官邸の無能さ、そしてずる賢さはテレビ画面を通じて余すところなく人々の目に映ることになる。菅首相は狼狽えているだけ。内閣発表は「放射線は健康に直ちに影響はない」の繰り返し。支持率低迷を挽回しようとする菅首相はヘリコプターで現地に飛ぶ演出をして、それでは行ってきますとテレビカメラに喋る。東日本の海辺を襲った津波被害への迅速で真っ当な対応ができない菅内閣は自滅することになる。代わった野田佳彦首相は、日本の財政のことを財務省官僚に繰り返し吹き込まれたために、この対策だけが課題だと思うようになり、公約をうちすてて消費税法案を通してしまった。野田内閣は総選挙で大敗、自民党安倍晋三内閣に代わる。民主党初代首相の鳩山由紀夫氏は普天間基地移設先を「最低でも県外」と述べ、これを実現する手立てがないことがわかるなどして人気が低迷して退陣した。
 参議院選挙では沖縄を除く一人区で全員を当選させた自民党が圧勝した。自民党議員の数を支持の度合いとして判断することはできない。ダメな首相を3代にわたって出してきた民主党にあきれた選挙民は、この時点での参院選挙で自民党を選ぶしかなかった。選ぶ側の消極性を前回参議院選挙を下回る52%ほどの投票率が示す。株価も上がっているし景気も良くなっている気配であるから、自民党の安倍首相に期待してみるということであろう。同じことが民主党に対してもなされた。安倍内閣の経済政策が目論見どおりに進むことになればよいが、期待はずれになったら日本はどうなる。
(福島第一原発の事故と原発の現状を考える 連載その4)

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