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日本計量新報 2015年1月1日 (3039号)

新領域に移行する技術と計量計測器産業の対応

お金が活発に市場で動くこと、企業も家計も収入が増えて可処分所得が増大すること即ち国内総生産(GDP)が増えていること、人々が現在にも将来にも希望を持って生きていること、金利が上がり気味であること、したがって物価も上がっていることなどが資本主義のもとでの市場経済が好ましい状態にあるときに出現している。これと日本経済を対比させればよくアベノミクス(安倍のミクス)の現状を推し量ることができる。
 安倍晋三首相の経済政策のことをアベノミクスと言っているのであり、その骨子は公共事業、大胆な金融緩和、成長戦略の3つであり、これにより日本経済をデフレから脱けださせ経済を成長させていく構想だ。安倍家のある旧長州藩の毛利元就になぞらえ「三本の矢」という言葉を使っており如何にも上手くいきそうな印象を与えるるこの宣伝が功を奏してきた。公共事業も金融緩和もその裏では国の借金を増大させることと同じであることは正面切っては語られてこなかった。この2つはデフレから脱却のための禁じ手を使っての破れかぶれ博打(ばくち)である。成長戦略はいつの時代でも国家戦略として基礎に据えられてきていることだから、何を今更ということでもあり、国の機関が打ち出す経済政策、産業政策は的はずれなことが多く、日本経済を押し上げてきたのは企業と国民の勇敢、沈着、大胆、忠実といった気質による懸命な努力の結果であった。この気質のもとに見事な働きをなした明治維新の英雄と君臣たちである。司馬遼太郎氏が『坂の上の雲』でとりあげた3人の主人公、秋山好古、秋山真之の兄弟と正岡子規も同じであり、日本特有の精神と文化と19世紀末の西洋文化を対比して描く。
 「昔軍人、今官僚」と言ったのは元通産官僚でその後経済企画庁長官をつとめた堺屋太一氏である。軍人の組織が軍人機構の保存を目的にしたのと同じように現在の官僚組織も何だかんだといいながら官僚機構の保存を目的に行動していると辛辣である。エコノミストはコンピュータに入力された同じような経済ソフトに幾つかの指標となる数字を打ち込むことで予測をたてるのだからみな同じような主張になる。そのソフトへの疑問を持たないのだから無能の人々といってよい。政府と連動する官僚機構に属する人々の発想方法は経済予測のソフトウェアにも似ている。それはアメリカの経済政策や欧州の経済政策の模倣の域を出ず、それだからこそ誰がやっても同じような政策になってしまう。「官僚機構はトンネルだ」と堺屋太一氏が説くのはそういうことであり、官僚機構をトンネルを人が順次通過していく様子としてたとえる。
 「アベノミクス」という安倍内閣の経済政策はお金を市場にじゃぶじゃぶとつぎ込んで、公共事業も同じようにするということまでは構想通りにできることであるが、それによってデフレから脱却できずに、家計も企業の所得も上昇しないでずるずると推移すると、後払いとなるその付けの支払いで苦しむことになり、企業においては中小企業の景気高揚感はない。「アベノミクス」のミクスとはエコノミクスのことであり、これは経済という意味であるから、それはなんでもない安倍内閣の経済政策であるのに、ここに高度な経済政策と魔法(マジック)があるように思わせて、人々はこの言葉に翻弄(ほんろう)された。普通の人々の収入と所得が上がらずに物価があがり、消費も低迷する状態が今後どのように推移するか。
 日本の経済の規模が縮小しているのはなぜか。工場などが海外に進出あるいは移転していること、東アジアなど賃金が低い国の物の生産やこの労働力がさまざまに日本の経済に作用していること、高齢化と少子化そして生産年齢人口が高齢化し減少していることなどによる。経済の規模が拡大しない、あるいは縮小することと、社会の全体の技術の発展とは別のことである。米国は情報がらみの産業では世界の先頭を走っており、その実体経済は良い状態にある。大量の情報をコンピュータにいれてこれを処理することによって得られることは多く、旅客機がどの経路をどの出力で何人乗せて飛ぶのが良いのか、といったことを割り出す。経済や行政機構のあり方など他分野でこうしたことがおこなわれることで改善されることは多い。
 日本では産業の設備投資は堅調に推移している。新しい技術が登場すると、旧技術による生産設備を含めた多くの設備は更新を求められる。青色発光ダイオードが話題になっているがこれによって白色光が実現できたのとあわせて、どのような色もつくれるようになった。最後まで日本でブラウン管の製造をしていたシャープはこれを止めた。別の方式の表示画面に移行しているという技術転換があったのであり、これなどは小さなイノベーションだ。コンピュータ、精密技術、センサ技術、制御技術、通信技術と連動する社会インフラに適合する新技術や新しいサービスが生まれていて、このことによって産業が新しい領域に移行している。計量計測関係の産業と企業では、さまざまな形でこれに対応している。
 計測の世界でもその作用あるいは目的を課題解決としてとらえることが多くなった。計測を単純な目的とするのではなく、その先の応用や処理と連結して考えるようになっている。体重測定は人の健康を実現するためになされる。計測の世界にいる人々がどの分野までを対象として踏み込んでいくのか、その選択は難しい。企業も人も精神をとぎすまし意欲旺盛にそのような状況に対応する気概を持つことが大事だ。

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