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日本計量新報 2015年2月1日 (3043号)

ノーベル賞受賞者が示した日本人の謙遜

理化学研究所が進めていた万能細胞のスタップ細胞はなかった。ES細胞が混ざった状態での反応をスタップ細胞と思いこんでいた、ということでとりあえずは結論づけられた。スタップ細胞の発見は山中伸弥教授のips細胞に匹敵あるいはそれ以上の意義をもつとされ、ノーベル賞に限りなく近いと2014年新年ころにマスコミが騒ぎ、人々は浮き立った。
 研究者が夢の世界で見ていたことを現実であると思いこんだという幻想を関係者と関係の機関が確認し検証することはなかった。スタップ細胞発見の論文はその後に改ざんや不正があったことが判明し取り下げられ、論文とその手法によるスタップ細胞実現の検証に実験からは何も出てこなかった。万能細胞にはいくつかのものがあり、これらは再生医療などに役立つことが期待されている。先端医療分野への研究費の割り当てなどで上手すぎるほどに行動してきた理化学研究所の注目の研究分野の不始末は、日本の関係機関の研究への疑念を広げることになった。
 論理とは、ああだからこうだ、こうすればああなる、といった正負の連結でできているから、不正を意図として含んだ事柄でも筋が通っているように見える。計測に関係した実験とその研究では、そのことが後で誰かの手によって確認されることだから、不正が入り込む余地はない、という考え方がある。山ほどでてくる論文の内容に関して誰かが逐一検証の実験をすることは必ずしもない。そしてその実験・研究の論文が技術的に社会的に革新性をもつ意義があるかの確認は十分にはなされない事情がある。学会などでは筋の通らない文章は査読されて訂正されるか、載せないかの対応がされる。雑文を論文として掲載するかどうかということの悩みの現場を垣間見たことがある。
 米国はノーベル賞の受賞者の数が世界一の国であり、全体の3分の1を超えて2位のイギリスを大きく引き離していることが示すように、学術とその研究は世界でも頭抜けている。したがって日本の研究者はアメリカにでかけて修行し能力をつけることが多い。米国留学者に共通して見られるのは論理に長けていることと、その論理に自信を持っていることだ。それはよいとしても自分の論理に溺れて論理の隙間にある間違いに気づかないことが多い。米国人が説く論理が世界標準のようにみえるために、米国で生活するとこの色に染まって、ごく単純にああすればこうなるという論理をたてたがる。米国帰りの人の政治評論、経済評論ほかにだまされる人は多い。反面ではその論理に詭弁のにおいがするのは論理のたて方が日本の風土と違うからだろう。
 スタップ細胞が幻想の世界の産物であることが判明した前後に登場した米国帰りの女性政治評論家が衆議院選挙を分析する論理は米国CIAの諜者であると思われたのはなぜだろう。スタップ細胞の研究者もまた米国の大学で研究をしていたのであった。自己顕示と成果主義にまみれた醜い人になるのは米国が日本と風土を大きく異にしているからだ。2014年に青色発光ダイオードの開発によってノーベル賞を受賞した年長者とその共同研究者は「どうして私なのか」と戸惑っていた。曲がるが折れることのない「たおやかさ」に日本人の在り方をみる。そしてまた日本の国の人々はノーベル賞のことを大仰に考えなくてもよいのではないか。ノーベル賞は大賞であるが大賞に匹敵する研究成果は予想より多く、中賞、小賞は沢山ある。そして計量計測分野においても大賞といえる研究成果と技術開発はいくつもある。そうした事柄に目を注ぐことと、それを賞賛することが大事だ。研究と開発がうまくいった事実に感激し、自負心を持っていても、あえてそれをことさらに誇示しない奥ゆかしい計測関係者のいることをここで述べる。

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