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日本計量新報 2015年5月3日 (3055号)

プロ野球テレビ中継における投球速度の表示の意味を問う

プロ野球の贔屓(ひいき)チームのテレビ中継を見るのが手軽な一番の楽しみであるという人は多い。阪神タイガース、中日ドラゴンズを応援するスポーツ新聞は敗戦の翌朝の紙面に負けたとは書かずに、誰がホームランを打った、誰がよく投げたということをトップに掲げた紙面をつくる。この地へ出かけてスポーツ紙を見るとドキッとする。雨のために贔屓チームの試合が中止になっても日本ハムファイターズの大谷翔平が試合にでているとこれを喜んで見る人は多い。投手で出て、中二日で野手として出場する。大谷翔平の一挙手一動作はプロ野球ファンを魅了する。
 大谷翔平は2014年7月19日、甲子園でおこなわれた「マツダオールスターゲーム」の第2戦で日本最速の162km/hの球速を出した。公式戦では2014年6月に記録した160km/hが自身の最速記録だ。日本プロ野球の公式戦最速記録は、読売ジャイアンツ時代のマーク・クルーンで2008年6月1日の福岡ソフトバンクホークス戦で松田宣浩に対して投じた162km/hである。次が東京ヤクルトスワローズの由規で2010年8月26日、神宮球場での横浜ベイスターズのスレッジへの投球で161km/hを出した。160km/hは東京ヤクルトスワローズの林昌勇(イム・チャンヨン)の2009年5月15日、神宮球場での阪神タイガースの新井貴浩選手に対して、読売ジャイアンツ時代のスコット・マシソンの2008年7月5日、横浜DeNAベイスターズの石川雄洋にそれぞれ投球している。
 プロ野球の球速の測定は、各地の警察関係が使っている自動車の速度取締器と同じドップラー効果の原理による。物体が運動している時はドップラー効果によって物体からの反射波の周波数が変化するので、発射波の周波数と比較して物体の運動の速さを算出する。球が手から離れた瞬間(初速)を球速の測定としているのがいまのやり方である。
 球速があること、狙った所に放ること、よい変化球であることなどが野球で役に立つ投球である。直球であっても初速が早いのに打者の手元では遅くなっていることがある。スピードガンによる球速の表示は初速の瞬間速度である場合が多い。球速には、投手の手から離れてホームベースへの到達直前の速度(終速)もある。読売巨人軍にいた江川卓の東京は後楽園球場での試合で、初速が147km/hで終速が142km/hであった。このころの江川は別の球場では149km/hを頻繁に出している。ある時は直球が149km/hでカーブのときには121km/h、そして145km/hでカーブのときには114km/hであった。これで驚くほどの三振を奪った。
 江川卓が投げる直球は浮き上がる球筋であった。浮き上がる球を放る投手の代表が阪急ブレーブスにいた身長169cmの山口高志であり、対戦した広島カープの山本浩二は「球の初速と終速の差があまりない投手」だと述べている。ビデオを元にしての山口高志の球速は距離と時間から割り出した結果、154km/hであった。初速は160km/hは超えていたことであろう。まさかり投法のロッテオリオンズの村田兆治が読売巨人軍のクロマティーに投じた球速は148km/hである。まさかり投法は球に縦の回転を与える投げ方である。縦の回転数が多い球は浮き上がる。山口高志の投球もこれと同じで球は縦方向に回転し、ときのロッテオリオンズの金田正一監督は山口高志の球は村田兆治よりもずっと速いと言い切っている。
 浮き上がる球の代表投手の阪神タイガース時代の藤川球児の球は5度の角度で秒速45回転で走った。クルーンの角度は10度で回転数は43回転。西武ライオンズ時代の松坂大輔の球は10度の角度で秒速41回転である。並み居る優秀投手の角度は30度で37回転である。普通の投手が秒速37回転の球を放ったときに対して、浮き上がる球は打者の手元を通過するときに、松坂の球は15cm、クルーンは17cm、藤川は30cm上になる。これを物理学の理論として説明したのが理化学研究所の工学博士姫野龍一郎氏である。藤川にホップスピンボールの投げ方を教えたのが阪神のコーチ時代の山口高志である。江川卓の直球は高校時代から驚異のホップボールであった。  
 プロ野球のテレビ観戦は日本人の一番の娯楽である。初速のみが投球の凄さではなく、終速や変化球との速さの差、変化球の質と種類、コントロール、コンビネーション、そして打者の得意球などに対応した投球があって、投手の成績が決まる。

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