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日本計量新報 2015年5月24日 (3057号)

速さの体感と連動する加速度あるいは角速度の作用

上海市ではリニアモーターカーは時速430kmで営業運転をしている。日本のリニアモーターカーは時速505kmで営業運転をする。時速500kmで試験走行をした日本のリニアモーターカーに乗った人が上海のリニアモーターカーの時速430kmでの走行感覚を次のように語っている。日本のリニアモーターカーが時速430kmに達するまでの上海のそれとの比較であり、「日本の方がはるかに速い」のだという。これは加速度の違いを体感したのであり、短い時間にある速度まで到達するとそれは速いと感じる。上海のリニアモーターが常伝導方式であるのに対して、日本のそれは超伝導方式であり、これによって加速度が違ってくる。2015年4月21日の日本のリニアモーターカーの試験走行における速度記録は、発進してから4分ほど後にトンネル内で時速600kmに到達し、この速度を10.8秒間、距離にして1.8kmほど維持した。この時の最高速度が時速603kmであった。
 さてここまで「速度」という表現を普通のマスコミが使うのと同じように用いてきた。国際単位系(SI)では、組立量として「速さ、速度」としており、単位の名称は「メートル毎秒」、単位の記号は「m/s」である。ここでの速さは一直線に前に進むということにしてある。SIにおける速さは組立単位であり、これと関係する単位として「角速度」=「ラジアン毎秒」「rad/s」、「加速度」=「メートル毎秒毎秒」「m/s2」がある。上海のリニアモーターカーが同じ時速430kmで走行してもここまでに達する時間が長いために日本のリニアモーターカーのような速さを感じさせないのである。このことは自動車やオートバイの速さの体感にも関係し、加速度にすぐれ、一瞬にして向きを変えることを動作性能に組み込むとスポーティな車になる。
 元プロ野球選手の田淵幸一は、1975年に43本塁打を放ち王貞治の14年連続本塁打王を阻止しているが、この田淵幸一の本塁打は45度の角度で外野スタンドに落ちる美しい放物線を描いていた。遠くに飛ぶ打球の回転とその角度は天性のホームランバッターと称された。打った良い角度だと思ってみていると打球が急に失速して外野フライということがあり、これは打球に与えられた回転による。中西太の打球は内野手が捕球動作をとった上をぐんぐん伸びて外野スタンドに飛び込むという弾道であった。最多三冠王(3回)の落合博光は腰を持ち上げながら手首を上手に使いボールをバットに乗せて、しかも狙ってホームランを打っていた。だから弾道は田淵のようでもありそれよりもほんわかとしていた。王も田淵も落合も自分以上の打者を育ててはいない。プロ野球の名選手は天性の素質を自らの力で開花させた人たちなのだ。
 江川卓元プロ野球投手の球は浮き上がるようにして打者の前を通過した。王貞治は「投手が投げた、球が来た、捕らえた、そこで打つ」と自分の打撃を語っている。その王貞治が山口高志投手の投球が目の高さを通過したときに振ったバットはウンと下であった。「来た、捕らえた、打つ」で、並の球筋の投球は打てても、球が上向きに回転して伸び上がってきては、的が外れるのだ。桑田真澄は金田正一に投手の生命線はコントロールだと述べて叱られているが意に介さない。桑田はよく曲がる球で打者を幻惑した。これは回転の速さをあらわす国際単位系(SI)の組立単位「角速度」=「ラジアン毎秒」「rad/s」で語るべき投球である。真っ直ぐだと思ってバットを振ると球は横に逃げ、あるいは下に落ちる。
 並の投手の球がお辞儀して打者の手元にやってくるのに対して、江川卓や山口高志の球は初速と終速の差が小さいために上に伸び上がるように錯覚される。だから打者のバットはいつでも球の下を通過する。球は加速はしないけれどもその減速の度合いを「加速度」=「メートル毎秒毎秒」「m/s2」とすることを考えると、王貞治が山口高志のボール球を空振りした訳がわかる。山口高志は速い球を放ることに生き甲斐を感じていたために身体を最大限使って投球した。そのために球をコントロールできなかった。江川卓は決して全力で投球しなかった。それでも球は浮き上がり、つづいての投球で緩いカーブを放ると打者は見逃すか打ち損じる。プロ野球を見るときには国際単位系の組み立て単位の速さ、角速度、加速度のことを頭に入れておくと楽しみは倍増する。そのまえに浮き上がる球かどうかをみて、お辞儀をするような球であれば並の投手だと断じておくと贔屓チームが負けても腹は立たない。

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