計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2016年2月  7日(3090号)  14日(3091号)  21日(3092号) 28日(3093号)
社説TOP

日本計量新報 2016年2月14日 (3091号)

元素のHeNeKrそして113番元素の理研による合成と発見の周辺

元素であるヘリウム(He、元素番号2)、ネオン(Ne、元素番号10)、クリプトン(Kr、元素番号36)は長さ標準に深く関係してきた。

「クリプトン86の波長」は「国際メートル原器」に変わってメートルの定義に用いられた。メートルの定義は「国際メートル原器」(1889年〜1960年)、「クリプトン86の波長」(1960年〜1983年)が担い、その後「光速による定義」(1983年〜現在)と変遷した。長さの定義が「1秒の299 792 458分の1の時間に光が真空中を伝わる行程の長さ」と1983年の第17回国際度量衡総会で決定され、現在も変わらない。

光の速さによって長さの単位「メートル()」を定義することはこれを実現するための器物が必要であり、実際に長さの標準を実現するために「よう素安定化ヘリウムネオンレーザ(HeNeレーザ)」が日本の国家標準器として1983年〜2009年のあいだ指定されていた。「よう素安定化ヘリウムネオンレーザ」の正確さは、国際比較により確保していて現在でも多くの国ではこの方法が採用されている。

日本の長さの国家標準は、「日本国メートル原器」(1889年〜1960年)、「クリプトンランプの波長」(1960年〜1983年)、「よう素安定化ヘリウムネオンレーザ」(1983年〜2009年)が担ってきた。2009年には「協定世界時に同期した光周波数コム装置」がその地位に就いた。この「協定世界時に同期した光周波数コム装置」は2009716日に国家標準(特定標準器)に指定されて現在に至っている。この装置は産業技術総合研究所の「時間周波数科波長標準研究室」が開発した。

右のことは元素記号と長さ計測とその標準にまつわることがらである。元素記号がずっと下がって113番になると周期表にそれがあり、元素の系統名として「ウンウントリウム」(Ununtrium)とされているこの元素はウランの原子番号である92よりも原子番号の大きい元素である超ウラン元素であり、原子番号93以降の元素は、基本的にすべて人工的につくりだす物質である。これらは全て放射性で半減期は地球の年齢よりかなり短い。これらの元素が地球誕生の頃に存在していたとしても、はるか以前に消滅してしまっている。

現在地球上で発見される超ウラン元素は、基本的に原子炉や粒子加速器で人工的につくられたものである。極微量のNp239Pu239は自然に生成されつづけている。ウラン鉱石が自発核分裂による中性子を捕獲したのち、二段階のベータ崩壊を起こしPu239になる。発見されていない超ウラン元素や、発見されていてもまだ公式に名前がつけられていない元素には、国際純正・応用化学連合(IUPAC)が定めた元素の系統名を用いる。それが現在の名称「ウンウントリウム」(Ununtrium)である。20161月現在、超ウラン元素の発見が認められた国はアメリカ、ロシア(旧ソビエト連邦)、ドイツ、日本の4カ国だけである。

原子番号113番の「ウンウントリウム」はロシア、アメリカで元素合成に成功している。理化学研究所(森田グループ)は、2012812日に3個目の生成に成功している。超ウラン元素の合成が3回成功するとその元素名の命名権が与えられる慣習になっている。国際純正・応用化学連合(IUPAC)は、20151230日(日本時間31日早朝)に原子番号113番の「ウンウントリウム」を新元素であると認定し、理化学研究所のチームに命名権を与えると発表した。

理化学研究所(森田グループ)は3個目の生成に成功したことを2012927日に発表した。同所ではこの実験によってウンウントリウム2786回のアルファ崩壊を経てメンデレビウム254となる崩壊系列の確認に初めて成功した。前回は4回目のα崩壊アルファ生じるドブニウム262が自発核分裂してしまったが、今回はアルファ崩壊(確率は23)し、次のローレンシウム258もアルファ崩壊でメンデレビウム254となるのを観測できたため、合成した原子核がウンウントリウムだと証明できた。

森田グループは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)の重イオン線形加速器「RILAC」を用いて、20039月から亜鉛(Zn:原子番号30)のビームをビスマス(Bi:原子番号83)に照射し、新元素の合成に挑んできた。20047月に初めて原子番号113の元素合成に成功し、20054月、20128月にも合成に成功している。

3回の113番元素合成報告に加え、2009年におこなったボーリウム(Bh:原子番号107113番元素がアルファ崩壊を3回起こした際に生成される原子核)を直接合成する実験からも、113番元素合成を裏付ける結果を得ている。これらにより新元素認定の際に重要視される「既知同位体への崩壊」が疑う余地なく確認された。

新元素発見に関わる審議は国際純正・応用化学連合(IUPAC)と国際純粋・応用物理学連合(IUPAP)が推薦する委員で組織された合同作業部会「JWP」がおこなう。森田グループは、2004年からこれまでに3度合成した「113番元素」を新発見の元素であると主張してきた。ロシアと米国の共同研究グループも別の手法により113番元素を合成し、その発見を主張していた。JWPは両研究グループの研究結果が認定基準を満たしているかを審議し、森田グループが観測した113番元素は確実に既知の原子核につながっているなどの理由から、森田グループが113番元素の発見者であるとIUPACに報告し、IUPACがそれを認めた。同グループは、113番元素の名前および元素記号を提案する。IUPACIUPAPが審査し、妥当と認められれば、約1年後に新元素名がIUPACIUPAPから発表される。

超重元素の研究の先には、未発見の119番以上の新元素探索や、「安定の島」と呼ばれる未知の領域にある原子核の探索、周期表上第78周期元素の化学的性質解明など、未踏分野がある。理研はロシアのフレロフ核反応研究所の研究グループと並んで、世界の超重元素研究を牽引しており今後も加速器の改良などして研究を推進する。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.