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日本計量新報 2016年2月21日 (3092号)

日本の社会制度の基礎となってきた計量行政の後退は何をもたらす

日本の近代産業は明治政府の殖産興業とつながって興った。欧州と米国の産業と経済の振興は明治政府の高官には見習うべきものであった。工業の発展、産業の発展、経済の振興のためになすべきことがあって、憲法の制定と議会の設置はそれであった。産業振興につながる法整備として計量法の前身の法制が敷かれ、メートル法をもとにする度量衡の標準器を国際度量衡局から導入した。 

度量衡の基準は地球の子午線から導きだした1メートルがもとになり、ここから体積をだし、体積から質量の標準を定めた。この定め方は科学的というより説得するための合理性に重きをおいたということでありそうだが、各国がそれぞれに度量衡の基準をもっていた時代だから、フランス政府のメートル制を普及するためにの政策であった。 工業、産業、科学技術、文化の<RUBY CHAR="","もとい">になる性質をもつのが度量衡の基準であり、この基準を確かなものにする度量衡法令である。度量衡法令は取引と証明にかかわる確かさが社会にいきわたるようにするために度量衡行政の制度をしいた。中央官庁の計量行政組織と地方の計量行政組織は一体不可分で運営され、地方の計量行政を担当する検定所の幹部職員は都道府県を跨いで移動する仕組みであった。

地方公共団体が運営する計量行政に地域性があるかといえばその度合いは少ない。神奈川県川崎市の計量行政は諸産業と関連する企業が密集していたことから品質管理と産業標準のことなどを啓発する活動が活発であった。役所が主導して企業の品質活動の支援をしたのであるが、それが求められその活動が企業の業績につながった時代と時期があった。そうした計量行政機関の技術支援活動は一般には基本活動の外側のものであったために、すべての都道府県が川崎市と同じ度合いでおこなうということではなかった。

取引と証明にかかり適正な計量の実施を確保するための業務として計量器の検定と検査そして関連する取り締まりと指導業務が計量検定所と計量検査所などの地方計量行政機関の仕事である。現代の地方計量行政機関の業務を簡単にいえばガソリン計量器、タクシーメーターの検査などがきちんとおこなわれているか、ハカリの2年ごとの定期検査が全数なされているか、ということである。電力量計の検定は別の機関でなされており、ガスメーター、水道メーターの製造とその検定がなされている地域は製造会社が所在する地域に限定される。

住民の平和な消費生活のためにハカリの定期検査が確実になされていることが大事であると聞かされたある市長候補は計量検査所の整備と確実な業務運営を政策課題にして当選した。それが現在は検定所も検査所も職員数が極度に減った状態にあるなかで、これでも不合理だといってこの統合をはかることが二重行政の解消につながると政策にのせるという愚挙にでている。どこからこのような誤った知識が与えられるのだろう。総合知識に欠けたいかにも軽薄な現代の地方行政機関の行動である。

計量器の検定やハカリの定期検査といった計量行政の業務は全国一律に実施されなければならないものである。行政の主体を地方に移していくという強い動きがあったときに計量行政のこうした事務が機関委任事務から自治事務に変更された。計量法令を取り仕切る中央官庁と担当職員の地方分権移行へも社会と政府と省の政治の圧迫に負けた間違った措置であったことが、その後にハカリの定期検査の実施率が5割を下回る状態になり、計量検定所と計量検査所などの計量行政職員が極度に減ったことで明白になった。計量行政職員の計量法令への知識と関連する技術力は極度に低下していて行政運営に支障をきたす状態にある。

計量行政を機関委任事務から自治事務に変えることに計量行政審議会の審議手続きはなされなかった。審議会の権限の上をいくのが地方分権一括法であったのだろうか。計量行政審議会の権限については現在の新計量法になってからその範囲が大きく縮められている。計量法令も政令、省令で取り扱える範囲が拡大されていて、その地位は省からの独立性が高かったのが、省の指揮にもとに移った状態になった。

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