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日本計量新報 2016年3月27日 (3097号)

不都合な事実をないものとして突き進む危うさ

原発事故をおこした東京電力は大変なことであろう。怠慢が招いた結果だといえば酷である。国も関係の機関も地震と大津波によって破壊された原子炉が暴走するとは思わなかった。原子力による発電方式の事故はスリーマイル島とチェルノブイリで起きているから絶対に安全であると思ってはならないはずだった。

だれが原発の運転の安全のことを考えてきたのか。安全のための規則ほかは2011311日に発生した大津波の前では役に立たなかった。緊急電源の津波対策を怠ったために大事故になったということからは、安全のための対策が取られなかったから起きた事故である。

緊急電源の津波対策といった初歩のことで躓(つまづ)いて福島第1原発周辺の住民の避難ということに留まらない混乱を引き起こしているのだから、原発の運転と運営にかかわっては人としての良心と素直さをもとにして、精一杯の技術方面の対応をしなくてはならない。良心とか素直さとか精一杯の技術対応ということでは東京電力は幹部社員を含めてそのような状態にないことは目に見えていた。

07716日の1013分、新潟県中越沖を震源とするマグニチュード68の地震によって東京電力柏崎刈羽原子力発電所3号機変圧器が火災となり、2時間後に鎮火するまでそのようすがテレビ画面に映し出されていた。見えているのに消火に走る人がいないのに皆が驚いた。この事故で一時運転停止した原発の再稼働を新潟県知事に申し出るときの東京電力の社長の態度と言葉は自己の責任を感ずるべき当事者とは思えないふてぶてしさであった。

同発電所に設置されていた重要機器や各建屋の揺れを記録する地震計97台設置のうち、本震の揺れを問題なく記録できたのは33台であった。63台は最大加速度値は記録できたものの本震全体は記録できず、そのうちの9台は1000Galで振り切れていた。1台は回路に異常はなかったものの、記録には失敗した。156号機に設置された地震計のデータは東京の本社に送信される電話回線がつながらず、余震のデータがその間に蓄積し地震計の記憶容量を超えたため本震のデータは上書きされて消滅した。このようなことが起こったのだ。設置されている設備は大地震と大津波があると、まともに動作するかわからない。人の側の対応も怪しげである。

関西電力の高浜原子力発電所3号機の発電と送電再開につづいて4号機を動かすために新聞、テレビなど報道関係者を集中管理室が見える場所に案内してスイッチを入れたら緊急信号が発せられた。送電用の主電源との信号のやりとりに異常があったためだが、この事故が発生すると報道関係者を閉め出した。宣伝になると思えば報道関係者を呼んで良いことだけ書かせて、不都合があると閉め出す。

狡猾にして傲慢な態度である。それは自信であるか思いこみであるか、せねばならないことなのかわからない。4号機の運転再開時の緊急信号による再稼働停止は数日後の大津地裁による3号機、4号機の運転差し止めに連結していると考えられる。この決定がなされると関西電力は一考することなく直ぐに不服申請をすると若い社員を表に出して宣言した。

東京電力と関西電力は原子力発電の不都合な事実はひた隠し、つごうがよいようにに報道を利用する。組織も人も不都合な事実は隠し見ないようにする。不都合な事実を消し去ることが頻繁になされる。政治家秘書が業務を代行してそれが罪に問われるようになるとこの世から消える。いまの関係法律は秘書の不始末は政治家の不始末として処理されるが、それでも秘書が墓場まで持っていくことは山ほどある。

原子力発電も含めてその分野の技術面の内容充実と管理運営にあたっては人の担う役割はことのほか大きい。事故原因を追跡すると技術文書もそれを読みこなせなかったり、知っていても手順を省いていることがある。

事故原因は人がつくりだすといってよい。良心に満ち素直であり物事に熱心に取り組む人こそが原子力分野に望まれる。これはそのまま企業や役所の組織における人物像になる。

嘘をつかない、人を信頼する、物事を素直にそのまま受け入れて考える、創意をする、工夫をするといった人物像である。信用ならないのは政府がきらびやかな数字で飾る社会と経済の認識の仕方である。役所は不都合な事実を隠して都合の良いことだけを述べて人を誤魔化す性質と傾向のある組織だ。

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