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日本計量新報 2016年9月18日 (3119号) |
オリンピック競技の勝敗と計ることの意味と意義日本の夏祭り8月も末になると過ぎ去りし思い出となる。「オリンピックは始まると瞬く間に終わってしまう」とアトランタオリンピックで銅メダルを取った有森裕子が言った。それにしても銅メダルになった日本のシンクロチームのカメラを見詰める眼差しは強かった。これも演技の1つであるとしても凄い。 陸上競技はオリンピックの華であり、わけても男子100メートルに優る競技はない。ウサイン・セント・レオ・ボルトが胸を二度たたいて余裕のゴールをし、200メートルでは先頭に立つと後続をさらに引き離したのち左右を確認しながらテープを切った。100×4の400メートルリレーは日本が第4走者のケンブリッジ飛鳥にトップでバトンを渡していたがその飛鳥の太腿よりも太い上腕を振り回してウサイン・ボルトがゴールを駆け抜けていった。 ジャマイカのウサイン・セント・レオ・ボルトは1986年8月21日生まれで、今年30歳、身長196cm、体重94kgであり、オリンピックでは上の3競技で3連覇。400メートルリレーの優勝もボルトの功績といってよい。 短距離競技は女子100メートルもジャマイカが1位、3位になった。男子100メートルの決勝は8人とも褐色の肌をしており、200メートルでは1人だけ白人がいた。女子短距離もほとんどが褐色の肌をした競技者であった。その訳を筋肉の強化と収縮を促すACTTN3遺伝子を備えたRR型かRX型を持っていることによるものとし、ジャマイカや米国のアフリカ系米国人の9割以上がRR型かRX型であるという。この遺伝子を「スプリンター遺伝子」といい、こうした筋繊維はオーストラリア選手が30%しかないのに対してジャマイカの選手は70%もあった。 リオ・オリンピックの準決勝に残った24人中7人がジャマイカ人であり、これには飛鳥のほかに外国に帰化して出場した3人が含まれる。西アフリカから奴隷船に乗せられて航海した終着地がジャマイカだったことと関係付けてジャマイカ人の能力が語られている。 勝負は時の運である。リオデジャネイロ五輪の陸上女子400メートルの決勝ではゴール前で<RUBY CHAR="躓","つまづ">いてそのままゴールラインを通過した選手が優勝した。普通に走っていれば2位になった選手が先に到着したはずなのに、躓いたことが幸いしてバハマのシャウナ・ミラーが米国のアリソン・フェリックスに優った。ゴール時の転倒は躓いたことによるものか意図して飛び込んだものか議論があるが、あの状況は躓いたのを立て直そうとしたことがそのままダイビングのようになったものである。写真判定でもダイブしたことによってシャウナ・ミラーの身体が先にゴールラインに達している。 オリンピック競技における公正な判定ということでは、柔道のシドニー五輪での重量級決勝における篠原信一の世紀の大誤審による敗退銀メダルがある。篠原信一の内股すかしは井上康生との練習の成果の1つで、このときの内股透かしは確実にきまっていたが審判が高度な技を見極める技量を持たなかったことによる誤審である。レスリング競技ほかでも、誤審ということが見られるから勝負は時の運と背中合わせである。 水泳競技ではプールの壁へのタッチを精密に計時しているから公正であるように思われるが、タッチする壁はレーンによって微妙に歪みがあって、その歪みによる距離の差は勝敗を分ける計時の精度より大きいことを時計メーカーの係員が語る。計ることの精密さの追求とその成果がもたらす事柄とあわせて、計ることの意味を考えることが大事である。
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