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日本計量新報 2016年9月25日 (3120号)

計量器の市場と事業展開とタニタ食堂

外出するときに持っていなくては不便なものに携帯電話がある。それはスマホであるかもしれない。スマホが電子メールの送受信のために働くようになったので旅行にパソコンを持ち出さなくても済むようになった。家を出るときに確認する言葉は「電気・ガス・水道・スマホ」になった。LPガスメーターには自動停止装置が付いている。ガス器具に停止装置が付いていない場合でも連続動作しているとガスの供給を止める。

電灯はLEDランプが低価格になったことも相まって普及した。しばらくすると100円ショップの目玉商品になる勢いである。今に始まったことではないが自動車の運転席にはパネルがないと思わせるほどに無反射である。表面反射を抑える表面処理のコーティング技術の発達によるものであり、カメラなどのレンズの加工技術と連動する技術革新がもたらした成果だ。冷蔵庫、エアコン、テレビジョンなどの電力消費の抑制技術の発展もすばらしい。テレビが奥行きのあるブラウン管によってできていたことが不思議なほどに薄型のモニターが普及したが、液晶が温度計として登場したのは40年ほども前のことであった。このような技術革新を生活分野、産業分野ほかで探すことは楽しい。

計測器の主要な構成要素となる電子センサーの技術革新には眼を見張る。これもあれこれのセンサーで確認するとよい。温度センサーの正確さ・精密度の向上はエアコンの運転の性能向上をもたらす。GPSは長さ測定の道具だと決めてみると、その使用範囲などを含めて驚嘆させられるほどに便利である。懐疑せざるをえなかった宇宙開発がGPSに結実しており、ハッブル望遠鏡などもこの1つである。

質量計測、力計測分野で用いられる歪みゲージを用いたロードセルの性能向上は静かに確実に進んでいる。等分割した目盛りを50ほど重ねた程度の精密さで力を表示したこのロードセルはそれが100になり1000になり、そしてそれをずっと超えるようになった。歪みゲージやそれを貼り付けてハカリ機構の一部とする起歪体の構造や加工技術の改善そしてマイクロコンピュータを組み込んだ電子技術の進歩があったからだ。低価格で実現するロードセルを使って精度や耐久力のないハカリが供給されているが、市場は悪貨を選り分けなければならない。

市場と計量器産業との関係を教訓として示す事例がハカリ産業にある。ハカリ産業の生産金額は産業機械あるいは工作機械と同じ動きをする。ハカリ産業の生産金額に占める5割ほどは産業用のハカリであり工場設備、農業設備ほかの設備と密着しているからである。ハカリ生産数量の9割弱ほどある家庭用ハカリは生産金額の割合では1割程度であり、途上国で生産されるものが市場に安価で供給されている。市場と流通手段といったことでの製造企業の経歴と絡みあった得手不得手があり一足飛びに新分野に分け入ることはしにくい。流通をおさえた者が市場を制するということがあり、ハカリ企業の有力企業によるスーパーマーケット関連市場の制覇がそれだ。

持ち帰り弁当の業界の最大手の「ほっともっと」ではタニタ弁当を売りにしている。美味しく分量もあり適正なカロリーに抑えられているこの弁当が人気であり、この弁当屋のイメージをも形成している。ホテルブリランテ武蔵野(さいたま市)のレストランはタニタ食堂の日替わり定食メニュー提供店として営業し、これが長くつづいている。コンビニエンスストアではタニタ食堂の減塩味噌などがおかれている。

タニタはハカリのタニタ、家庭用ハカリのタニタであるが、このタニタのブランド、タニタ食堂のブランドでレストランや関連の商品を供給するようになった。タニタ食堂レシピの本の売り上げは出版業界の記録を更新する販売数であり、インターネットで提供する会員制のタニタ食堂レシピも人気だ。タニタの多方面の事業展開は並の者には理解できそうもない。それは市場の刺激によってもたらされたものか、経営者の意図によって実現したものであるか、興味は尽きない。

 

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