03年
1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
02年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
01年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
00年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
99年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
98年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
97年 1月〜4月/ /5月〜8月/ /9月〜12月/
96年 〜12月/
- 社説・あえて競争の荒波に身を置く気概(03年8月31日号)
- 社説・老人性ボケの発生と計量の仕事への従事(03年8月24日号)
- 社説・商業物流とeコマースで変わる計量器販売(03年8月10日号)
- 社説・情報化新時代を生き抜く計量器企業(03年8月3日号)
- 社説・老人を対象として意識した計量器開発(03年7月27日号)
- 社説・団体総会における従業員表彰の意義(03年7月20日号)
- 社説・デジタル革命とトレーサビリティ思想(03年7月13日号)
- 社説・都計協会長交代と20年間の変化(03年7月6日号)
- 社説・情報化社会に適合する新産業の創出(03年6月22日号)
- 社説・適正計量管理事業所の指定促進(03年6月15日号)
- 社説・頑張ることと褒められること(03年6月8日号)
- 社説・計量行政の滞りない実施と体制整備(03年6月1日号)
- 社説・「計量コンサルタント」制度とその役割(03年5月25日号)
- 社説・重症急性呼吸器症候群SARSに備えよ(03年5月18日号)
- 社説・人の身体の要素をはかる(03年5月11日号)
- 社説・計測データの巧みな演算処理(03年5月4日号)
社説・あえて競争の荒波に身を置く気概(03年8月31日号)
市場経済とは競争経済のことであるから、経済とは競争といっていい。競争なき市場は滅ぶということを強調して、自らを競争する立場のものとして駆り立て荒波に立ち向かう計量器企業があり、堅調に業績を推移させている。この企業の言う荒波を、泥仕合でも勝つ、という言い方をして顕著な業績を挙げている計量器企業もある。この二つの事例の企業はただ闇雲に競争精神を社内で煽っているのではなく、丁寧に論理づけられた企業精神を確立しており、その結果があえて競争の荒波に身を置くという立場に結びついている。
人も企業もいい競争相手をもってそれに負けまいとすることによって自らを高め、発展する。計量器産業の中の様々な業種を立ち入って観察すると激しい競争をしている分野とそうでない分野があることがわかる。競争がない分野で暢気に商売をしたいと思うのは誰でも同じであるが、世の中そうはいかない。競争が激しくない分野はおしなべて成長しない分野である。競争がないことになれて気を緩めていると成長がとまった業種であることに気付かずにいることが多く、しまいには自らが生きて行く道を塞ぐことになる。
計量器産業のうち、計量法にかかわって特定計量器として検定付きなどとして供給される器物は全体の10%程度か、それ以下であろう。今はこのようであるが、以前は特定計量器の供給割合ははるかに高かった。計量法にかかわって製造免許などの許可を得ていればそれだけで楽に商売ができたという時代があった計量器産業であるから、そのなごりを残している分野がないとは言えない。こうした入場制限のあった分野での企業活動は商品力あるいは競争力という面ではひ弱さを持ち、同時に他の産業がそれなりに成長しているときに横ばいないし後退傾向にあることが多かった。計量器産業には全体にそうした雰囲気があるものの実質は暢気な商売ではなく、荒波に立ち向かい泥仕合でも勝ち抜くという精神を持たなくては生き残っていけないのが現実であり、成長著しい計量機器事業者は皆自らを厳しい立場に置いてきた。こうしたことに目の覚めることのない企業の多くは衰退し、市場から退場を余儀なくされてきた。
計量法にかかわる計量器の製造・販売等の商売は、もはや入場制限された中での商売ではない。法規制の緩和で入場制限は解かれている。むしろ計量器の技術進歩を法が阻害する要素が目立ち、本来なら拡大すべき市場に制限を与えていることもある。
自由で公正な競争が活発に行われる市場であることが計量器の市場規模を拡大する保証になる。もしもその市場が将来的に頭打ちあるいは減退するのであれば、別の計量器市場あるいは他の産業市場で勝負することを考えることが正しい選択といえる。昔からあった市場には未練が残るのは仕方ないことかも知れないが、新分野へ挑戦する気概をもってこそ現代を生きる技術力がある企業のあるべき姿でもある。計量法が新しい市場を創り出すことが望み薄という状況であればこそ新分野への挑戦こそ、そこにはそれなりにリスクは付いてまわるものの、企業が未来を健全に生きていく術である。
計量法の枠の中でしか発想できない企業、計量法の中でしか商売できない企業が将来を生き抜くことは厳しい。同じことだが旧来の土俵での売り上げを下落させないために商品価格を維持しあるいは上昇させようとする行為に不当性はないが、それは正当な企業間競争のもとで実現されるときに限って言えることである。商品の性能が向上しない条件下での価格維持が極めて困難なのが、アジア他の途上国の振興がつづく国際化時代の今日の状況である。
社説・老人性ボケの発生と計量の仕事への従事(03年8月24日号)
人は必ず老いる。老いてもボケなければいいが、ボケには程度があってどんな形かで皆ボケる。ボケていないと思っても外からみると老いると皆ボケている。老いと平行してボケが相当程度進行しているにもかかわらず、その人が権力のようなものを持っている場合そのことを進言する者は少ない。ボケた人の判断は多くの場合間違うことが多い。ボケた人は昔やってきたことをそのまま踏襲しようとする。新しい事態への理解はそれなりにするが適切な対応ということでは経験が邪魔するのか不十分である。とりわけ技術の革新にともなう新事態への対応力がない。ボケが進行して人間性まで変わる人がいる。仕事上の役目はそのままであることが多いので周囲は困り、自分の損得に関係しない場合にはその人を避けるようになる。
ボケの予防法はいろいろ言われるが、概論は次のとおり。若いときから健全な精神と健康な肉体を保持することを実行し、詩人病の出てくる40歳代になったら、以上のことをより意識して心身の健康増進に積極的に取り組む。具体的な方法としては、日本人のボケの半分近くが脳血管性の痴呆によるものだから、血圧に注意し、動脈硬化を防ぎ、脳卒中を起こさないようにすることである。
以上のことを具体化する予防法として次の6つが挙げられる。@老後の人生設計を早くやる。そしてスポーツや趣味を楽しむ環境を築き、孤独に陥らないようにする。A肉体的に若さを保つ努力をつづけること、とくに足腰の力の衰えを防ぐために軽い運動をつづける。B脳の血管障害を防ぐ。C勉強に興味をもって勉強をつづける。D気持ちの働きを重視し、周囲と楽しい関係を維持し、つくりだす。E身の回りのことは自分でやる習慣を確立する。
ボケ防止には頭(理性)と感情(心)をよく働かせること。頭を使っている人の多くはいつでも若い。定年などほとんど関係ない。人は生きる目的をもって情熱的に仕事をしているとボケない。とはいっても年齢の進行にあわせて大なり小なり頭の働きは落ちるから、重職は自分が役目に就いた年齢と同じ年頃の人に渡して、年相応の働き場を見つけることが賢い行動といえるだろう。名誉は得られて、責任は軽いという職務はあるのだから、早くにそうした職責に身を移して、年齢相応の仕事を楽しんで行うとよい。
人生を楽しむためには老年時代の仕事の適切な設計をしなくてはならない。これを誤るとせっかくの成功的人生に汚点を残して幕を引くことになる。しっかりしていると自分では思っても人はそのように考えないことが多く、年相応にボケが進行しているのだから老年の役職者の身の処し方は難しいものである。
社説・商業物流とeコマースで変わる計量器販売(03年8月10日号)
日本の道路はすべての家に繋がっている。ほとんどの道が舗装され、その道を使って貨物車で荷物が届けられる。日本の社会は自動車便を使っての物流の条件としては世界のどの国よりも良い。また通信手段も有線に加えて無線通信網が張り巡らされたことから、何時でもどこでも通信によって情報へのアクセスが可能となっている。携帯電話、PHSは情報アクセス端末となっており、使いやすさを向上させているパソコンはテレビ・ラジオとは異質の高度な情報端末となり、これらの総合によって電子商取引であるeコマースが実現し、同じことによって電子的なビジネス活動であるeビジネスが拡張している。
これらはインターネットの世界に実現している新しい商取引形体とであり、新しいビジネスの形である。モノの売り買いにはモノの運搬がともなう。モノの運搬つまり物流のための社会基盤は道路網とあわせて物流産業も育成されて十分に整っている。いまや日本の社会は郵便局がなくても困らない状態にあり、ほとんど物流天国となっている。
注文を受けた商品は品物さえあれば、翌日には購買者の手元に届く。その道が生活者の家に続いている限り乗用車が走らないことがあっても、商業物流企業の貨物車が必ず走っている。
購買者の中に占める高齢者の比率は今後ますます高まる。高齢者は商店に足を運ぶための条件が悪く、ある面では苦痛であるから、カタログ販売を利用するようになる。カタログ販売は、テレビ放送を通じてのテレビショッピング、ネット通販をその概念の中に含む。野菜など食料品を含む生活物資の商業物流企業を仲介とする通信販売がますます増える。
計量器の販売に占めるカタログショッピングあるいは通信販売は増える。便利な商品の情報が生活者・使用者に上手く伝えられて、購入手続きが簡単であれば、この方式を通じての販売量は増える。道路網とインターネット等を含む通信網手段ならびに商業物流の発達によって、計量器の販売方法と物流は変化する。
社説・情報化新時代を生き抜く計量器企業(03年8月3日号)
日本人は老人ばかりになる。老人になると病気が増える。病気になってから治療に努力するより、病気を予防することに力を入れることの方が望ましい。病気になる人を少なくすること、老人になっても病気にならない人を増やすことこそ大事であり、このために計量器が役立つことは多い。すべての病気の発見とその予防に計量あるいは計測が関わる。見えにくいものを見えるようにすること、数えにくいものを数えるようにすること、比べにくいものを比べられるようにすることなど、計測がなし得ることによって不明のものが明瞭になることは多い。
体温も血圧も正常値と比べることによって異常を発見し、異常は大概病気かその前兆となる。病気発見と診断はすべて比べることを中心とした計測を手がかりとする。医療に密着した分野での計測機器の開発が促進されなくてはならない。また診療行為以前の健康度を確かめるための計測器が開発されればこの方面の需要は大きい。大衆相手の大衆商品の市場を独占できれば儲けは大きくなる。
既存の計量器市場の中にいて、こつこつと地道な改良を重ねて商品力を向上させるビジネスが一般的に行われる。発想として大事なことは今までなかった市場を従来技術を昇華させた新しい商品を開発してつくりあげていこうとする意識である。計量器の市場はこうした新しい市場を拓く新商品の開発によって規模を拡大してきた。
技術は常に改良され定期的に飛躍的に発展する。新しい技術で旧来の市場が席巻されてしまい旧来技術で商品をつくっていた企業が市場から撤退することが常に起こる。コンピュータ技術を核とした情報化新時代の進行のもとで、変わらずに生きていける事業と企業はほとんどない。計量器の事業にも企業にも新しい時代に適合する変化が求められており、正しい変化をした企業と新しい事業をつくりあげた企業に新時代の道が開ける。
社説・老人を対象として意識した計量器開発(03年7月27日号)
「乳児用のはかり」や「料理用のはかり」があって、「ヘルスメーター」というはかりがある。産業廃棄物の処理にからんでトラックスケールがそこそこ売れており、産廃がらみの計量器開発がみられ、この方面の計量の需要が膨らんでいる。
乳児用はかりに対応するものは「老人用はかり」である。成人用はかりであっても良いかも知れない。成人用はかりの概念に含まれるのは体脂肪測定可能体重計などである。体重をこまめに計ることは老齢者には苦痛であるから、食卓の椅子が体重計替わりになるようにすると日に何度も体重をはかることができる。この体重計に老人向けあるいは熟年向けの工夫をしたら面白いだろう。たとえば昨日と同一時間の体重比較をし、あるいは1月前との比較、1年前との比較をして摂取する食料と栄養量の計算をして指示を出すなど。
計る行為を意識せずに、計ってしまうという計り方はとてもいい。計量器が計量器として余りにも自己主張し、威張っているような計量器はこれからの時代の流行ではないように思われる。計っているけれどそれを意識させずにやってしまうことは粋(いき)なことである。別の言い方をすると親切な計量器ということになる。使用者への心使い、やさしい思いやりに満ちた計量器は専門企業でなければつくれないように思われる。
使いにくい計量器は売れない。アナログ表示の計量器がデジタル表示に急激に切り替わったのはこれと同じ理屈からである。計れればいいのではなく楽しく計れなければならない。社会の人口比として子供が減って老人が増えるのが21世紀中盤までは確かなことである。大衆に使ってもらう計量器の場合には老人を意識することが多くなることであろう。
社説・団体総会における従業員表彰の意義(03年7月20日号)
計量関係団体の日本圧力計温度計工業会と全国計量器販売事業者連合会は総会を泊まり込みで行い、この席上で優秀従業員の表彰を実施している。総会実施場所には観光地が選ばれ、優秀従業員には褒美の旅行も合わせて提供される。団体総会席上での各種表彰式の実施は一般的であり、会員企業の経営者および従業員は晴れがましい舞台での表彰に普通の場合緊張しまた感激している様子がうかがえる。
日本経済の景気低迷と企業業績の不振からこの種の従業員表彰を手控える傾向があるなか、会社内での決めごとということもあって費用のかかる表彰の推薦に従来どおり敢然と候補者を推薦する企業の意気込みには敬服する。
日本圧力計温度計工業会は、ブルドン管を使用した圧力ゲージなどを製造する企業ならび金属製温度計と呼ばれる隔測式の圧力式温度計を製造する企業が組織している全国組織の工業団体である。加入企業は漸減傾向にあり、これはこの関連の事業の寡占化をある面で物語っており、同時に小規模企業の事業継続の困難性をも反映している。途上国の追い上げに対抗する手段はそれぞれの企業でさまざまな形で実施している。その方法は汎用技術ではない高度な加工技術および精密技術による高付加価値商品の製造である。また部品の海外調達、海外生産、海外への委託生産によって価格競争力を確保するなどである。
この業種は日本の他の産業分野と同じように造れば売れる時代があり、そこそこに儲けることができた。このような昔を語っても現代の経営難の時代に大して慰みにはならないが、圧力ゲージなど圧力計全般ならびに金属製温度計は高度な製造技術を要するものであった。技術が進歩し産業経済等の社会環境が変わると昔の技術のままでは事業継続がおぼつかなくなる。現在、元気に活動している企業はどんな形にしろ社会状況に適合する経営方式を見いだしている。
全国計量器販売事業者連合会の場合には今年度総会席上での従業員表彰該当者はなかったものの、これまでこの制度を継続運営している。計量器販売の専業事業者は減少傾向にある。扱い商品の多様化と専門性を要することから、専業販売事業者は自分の得意分野の開拓に懸命である。売りっきりの販売一辺倒ではなく、メンテナンスを含む使用者からの再注文の繰り返しで売り上げの安定化を図る傾向がある。計量器の種類によってはメンテナンスの必要度合いが高いものがあり、この分野での事業は安定感があるものとして好感されている。どの計量器事業の分野でも事業環境の変化への対応なくして健全な経営は難しい。この分野でも多くの知恵と勇気ある経営者が育っており、優秀な企業がいくつも生まれている。
計量器産業に従事する人々は経営者であっても従業員であっても、時代の新しい息吹、新しい技術、経営上の知識その他を備えていなくてはならない。これとあわせて知恵と勇気がなくてはならず、知恵なきもの、勇気なきものがいまの時代を生きて行くのは難しい。したがって知恵を磨くための研鑽、勇気を奮い出すための仕掛けをつくらなくてはならない。従業員表彰は勇気を持たせるための有効な方法の一つである。
社説・デジタル革命とトレーサビリティ思想(03年7月13日号)
アナログとデジタル。この区別を明確に意識することは難しい。たとえばデジタルについて。コンピュータで表示される画像は、デジタル化された画像(デジタル画像)である。そのデジタルとは何なのか。デジタルとは、0と1の2つの数字だけを用いて情報を表現する手法。これが用いられるのは、コンピュータにおける情報処理が、電圧の高低(または電流が流れるか流れないか)に例えば0と1を対応させ、それを信号として受け取り、ある法則に従って情報に変換する仕組みになっているからである。そして、この0か1が入る状態のことをビット(bit:語源は2進法の1桁のbinary digit)という。対してアナログとは何かというと、情報を波で表現する手法である。
デジタル情報は、電磁気状態に1や0を対応させ、その情報を表現しているが、実際には1と0のみだと桁数が増えるため8進法や16進法が用いられる。通常使う10進法ではないのは、8進法や16進法の方が2進法から変換しやすいため。10進法には0から9の10個の記号が必要であるように、16進法には16個の記号が必要になる。この記号には「0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,A,B,C,D,E,F」を用いている。10進法ならば、9の次はひとつ位が上がって10となり、10が10個集まるとまたひとつ位が上がって100の位になる。これが16進法の場合は、9の次は桁が変わらずAとなり、Fの次がひとつ位が上がって10となる。例えば、10進法で30と表される量は、16進法では1Dと表される。また、2進法では11101となる。つまり、2進法で表現された数を下から四桁ずつ区切り、その四桁分が16進法における1つの数に対応する。
もとへ戻って、デジタルとは「0と1からなる数字」のこと。パソコンやDVDは、0と1が並んだ信号を計算して画像や音を出したりするのでデジタル機器と呼ばれる。もともとデジタルは「指の」「指し示す」という意味で、遠い昔、指を使って数を示していたことに由来する。すなわちデジタルは、数字によって明確に指し示すことができるという意味になる。デジタルとアナログの区別を明瞭にあらわす例としてよく取り上げられるのが時計で、液晶画面に数字で「10:45」と表示されるのがデジタル式。これは「10時45分」というひとつの時刻をはっきりと示し、44分59秒でも、45分01秒でもない。これに対し、時刻を大小2本の針を使って示すのがアナログ式。針は文字盤をつねに動いていて、「10時45分」でぴったりと止まっていることはない。アナログはもともと「連続する」という意味があり、時計の針は、それをよく表している。
コンピュータの中で表わされる情報は電気信号の「ある」「なし」で処理されている。したがって、コンピュータの中では「連続的」に変化する情報でも、それを「ある」「なし」で表現できるように「とびとび」の情報として扱う。「デジタル」と「アナログ」はどちらが良いのか。時計などの場合には、用途や好みの問題で、どちらが良いとは一概には言うことはできないが、通信や様々なデータを扱う際には「デジタル」のほうが便利である。パソコン通信は音声を伝えるアナログ回線である電話回線から始まり、転送速度と転送量を高めるためそれが一部デジタル回線化されて、光ファイバー通信網も利用されるようになっている。電話回線の場合、パソコンのデジタル信号を音のアナログ信号に変換=変調=Modulateしないと送信できず、さらにそのアナログ信号を元のデジタル信号に変換=復調=Demodulateしないと受信できない。それを行うのがモデムで名称の由来もそこにある。デジタルとアナログの違いを辞書的視点で見る。「広辞苑」には次のように書かれている。デジタルは「ディジタル」と記しており、「ある量またはデータを、有限桁の数字列(例えば二進数)として表現すること」と述べている。対語はアナログで、アナログとは、「ある量またはデータを連続的に変化しうる物理量(電流・電圧など)で表現すること」とある。「現代用語の基礎知識」(自由国民社)は、「デジタルが数量的(数表示時計)であるのに対してアナログは図形的(針式時計)である。別の具体例で述べると、古代人が遠くの味方に敵の攻撃の人数を“のろし”で知らせるとき、煙の上げる回数で示すのがデジタル、煙の量で知らせるのがアナログである。」と書いており、「知恵蔵」(朝日新聞社)では「デジタルとは数を数える指からきた言葉で、情報を1、0のような離散的な符号で表現すること。情報を不連続的な信号値に直して取り扱う技術をデジタル技術、そのまま連続的な値として取り扱う技術をアナログ技術という。コンピュータやOA機器には特にデジタル技術を使ったものが多い。テレビ、VTR、オーディオ機器など民生分野の機器は、近年ほとんどデジタル化された。」と記している。辞書的表現のデジタルとアナログは以上のとおりであり、簡略に述べると「アナログは情報を連続的、図形的、量で表示する。デジタルは不連続、数量的、0、1のような数値で表すこと」である。
それではデジタルがもたらしている状況はどんなものか。1980年代から1990年代にかけてのアナログからデジタルへの変革の波は、情報の処理形態を大きく変革させた。アナログ信号がデジタルで取り扱えることは、情報の高速処理、情報の通信処理、劣化しない情報の加工、複製、保存等が簡単に可能になるなど、情報処理分野で飛躍的な変革を起こした。音や映像等の波の情報がデジタル化され、数値やコードデータと同じ扱いでコンピュータにて、一緒に高速で処理できる。コンピュータで音や映像の情報が取り扱えることは、もはやデータ通信も放送も同じメディアで取扱いができ、何ら変わることなくコンピュータ処理が可能になることを意味する。放送と通信の統合やインターネットによるビジネス社会のグローバル化は、社会経済の仕組みを大きく変革させる起爆剤となる。これは画期的なことであり、予想を超えた大変な変革を社会にもたらす。デジタル化は国際社会を変える基盤技術となっている。
デジタル技術の情報通信分野への応用発展は、計量技術分野ならびに計量器産業をも巻き込んでこの世界に大変革をもたらしている。専門技術が一般的な技術に転化し、専門分野が崩れて産業的には一般的な分野に転換する。業種の垣根が壊れ、製造業と販売業の区別も不明瞭になる。ここでは使用者にとって何が便利で利益をもたらすかという競争が暗黙のうちに行われている。
通信回線を利用して計量標準が供給されることも技術的には遠い将来の夢ということではなさそうである。必要な計量標準と随時突き合わせることは計量標準のトレーサビリティの基本精神であるが、こうした標準に関する需要を円滑に満たそうとすることもトレーサビリティの精神である、必要な校正を適時行うことこそトレーサビリティの思想であろう。
社説・都計協会長交代と20年間の変化(03年7月6日号)
東京都計量協会の会長が小野田元氏から渡部勉氏にかわった。小野田元氏の会長職在任期間は5期20年。この期間に日本計量協会の会長をつとめ、同会と計量管理協会、日本計量士会が統合して日本計量振興協会に移行した折りには初代会長をつとめた。
小野田元氏の20年間の東京都計量協会会長としての在任期間に計量の世界は、事業規制を大きく緩めたことを中心にして大きく変わった。計量器事業は製造・修理・販売のどの事業も役所の認可等が難しいものであったものが、規制といえる内容が消えた。販売事業に関しては血圧計と体温計の事業規制が外れ、質量計(はかり)に関しても所定の事項を記載して届ければいいといった内容に変化した。
役所の許認可を得ることが出来ればそれなりに稼げた時代の計量器事業(製造・修理・販売)は、商品の流通量が増えるのに歩調を合わせるように事業としての面白みが薄れるようになった。計量協会への加入者のほとんどすべてがこうした計量器事業者であり、数の面からは計量器販売事業者が圧倒的に多く、そのうち体温計および血圧計の販売に係る事業者が多かった。質量計、血圧計、体温計の計量器販売事業はいろんな経緯の後、登録制として長い期間存続し、再登録の手続きの便利さのために計量協会に加入しているという実情があった。これが規制のきわめて緩い届出制に変更され、その後に体温計と血圧計の届出規制が撤廃された。関係する販売事業者は計量協会に加入している意義を見失い勝ちになったこともあり、これら事業者の退会傾向が全国的に続いている。
地方の計量協会組織からの販売事業者の退会傾向には歯止めをかける有効な策は講じられておらず、組織の貧弱化が顕著になっている。全国の計量協会の3割ほどは、少ない会員数、わずかな会費収入のため、独立した事務局を置くことができないでいる。多くの計量協会もこうした状態に次第に移行している様子があり、前途は多難である。
全国で10カ所ほどの計量協会が、計量法の指定定期検査機関制度として所轄の計量行政機関から指定を受けて、はかりの定期検査を実施するようになっている。これまで地方公共団体が実施していたはかりの定期検査業務が、計量協会に実質的に「移管」される動きが活発化している。指定定期検査機関の業務には事務局として計量士有資格者の保有が必要であり、また業務遂行のため関係する職員を確保しなくてはならない。このため指定定期検査業務が協会事業に追加された所は、選任職員数が増え、事業規模を拡大している。しかし、このこととは裏腹に会員数は減少の一途をたどっている。東京都計量協会もこの例外ではない。東京都計量協会における小野田元会長在任20年の間に、計量法の仕組みに起因する計量協会をとりまく事情が大きく変わり、協会運営の舵取りは難しさを増している。新会長に就任した渡部勉会長には嵐の中の船出といった恰好であるが、同氏は日本計量振興協会の副会長でもあることから、舵取りの妙は心得ていることであろう。
なお小野田元氏はことある毎にドイツ・ミュンヘン市にある「計量アカデミー」を例に引いて、日本において「計量大学」をつくることを提唱してきた。同氏は「計量大学構想を具体的なものとして推進できなかったことが心残りだ」と会長退任の挨拶で述べている。
社説・情報化社会に適合する新産業の創出(03年6月22日号)
人は明るい見通しがあると元気でいられる。未来が明るく映っている国の人々は元気である。中国は国も人も元気である。未来が明るく見えているからである。翻って日本はどうであろうか。未来に明るい展望を持っている人は多くはない。縮む経済と縮みがちな収入が現状であり、縮む傾向が10年もつづくと、膨らむことを期待しても現実のものとして考えることが出来なくなってしまう。
日本で縮んでいるのは経済だけではない。人口も少子化の後に来るものとして縮み傾向が顕著になっている。国立社会保障・人口問題研究所の日本の将来推計人口(平成14 年1月推計)では、日本の総人口の推移を次のように予測する。「人口推計のスタート時点である平成12 (2000)年の日本の総人口は同年の国勢調査によれば1億2、693万人であった。中位推計の結果に基づけば、この総人口は今後も緩やかに増加し、平成18(2006)年に1億2、774万人でピークに達した後、以後長期の人口減少過程に入る。平成25(2013)年にはほぼ現在の人口規模に戻り、平成62(2050)年にはおよそ1億60万人になるものと予測される。高位推計によれば、総人口は、中位推計よりやや遅れて、平成21(2009)年に1億2、815万人でピークに達する。そして、それ以降は減少に転じ平成62(2050)年には1億825万人に達するものと見込まれる。一方、低位推計では平成16(2004)年に1億2、748万人でピークに達し、以後減少して平成62(2050)年には9、203万人に達する。このように日本の人口はまもなく人口減少時代に突入し、右肩上がりの人口増加の趨勢は終焉する。日本の出生率が1970年代半ばから人口を一定の規模で保持する水準(人口置換水準、合計特殊出生率で2・08前後の水準)を大きく割り込んでいるため、このような過去四半世紀続いた低出生率水準と今後の見通しは今世紀初頭から始まる人口減少をほぼ避けることの出来ない現象としている」また生産年齢(15〜64歳)人口の推移については次のように予測する。「生産年齢人口(15 〜64歳)は戦後一貫して増加を続け、平成7(1995)年の国勢調査では8、717万人に達したが、その後減少局面に入り、平成12(2000)年国勢調査によると8、638万人を記録した。中位推計の結果によれば、生産年齢人口は平成7(1995)年をピークに以後一転して減少過程に入り、平成42(2030)年には7、000万人を割り込み、平成62 (2050)年には5、389万人に達する。高位ならびに低位推計によって、今後の出生率仮定の違いによる傾向をみると、高位推計では出生率が高く推移するぶん生産年齢人口の減少の勢いはやや遅く平成45(2033)年に7、000 万人を割り込むと予測される。そしてその後も生産年齢人口の減少が続き、平成62(2050)年に5、838万人に達する。低位推計の生産年齢人口は平成40(2028)年に7、000万人を割り込むものと予測される。さらに平成61(2049)年に5、000 万人を割り込み、平成62(2050)年には4、868万人へと縮小するものとみられる」
日本の人口の減少は予測最終年の2050年以降さらに進んで2100年には5000万人になってしまう。中国は2025年以降は漸減の予測。インドは2025年まで急増し、以後緩やかな上昇。アジアならびに世界人口はインドと同じ傾向となる。ラテンアメリカは2050年まで緩やかに上昇し、以後横ばいとなる。先進国は現状から緩やかに減少する。
日本の人口は江戸期の農業型社会にあっては3000万を少し超えた程度であった。江戸期には徳川吉宗の享保改革における新田開発をつうじて人口が2倍に増加した。南北朝、室町、安土桃山時代は1000万人程度で推移しており、江戸期に人口は3倍に増えた。明治維新時点の3000万人強が工業化社会の進展とともに1億3000万程にまで達し、ここが飽和点となり以後急速に減少するものと予測される。
人口は国土の面積に規定されながら農業型、工業型とそれぞれに容量がある。日本の人口減少は欧米先進国の人口減少と同じ推移をたどっている。工業社会がつぎの情報化社会に移行するとき、新しい情報化社会が日本にどの程度の人口容量を持つか不明である。工業社会よりは情報社会の方が人口容量は少ないものと考えられる。
日本社会は全体として見ると工業社会から情報化社会あるいは情報社会に移行中であり、モノ・サービスなど商品の生産も新興工業国との棲み分けが自ずとなされることになる。日本のGDPが縮んでも一人当たりの実質所得が増えれば人々の幸福感は増大する。日本のGDPが縮んでも日本の資本の生産量を増やす方法は可能であり、日本企業はアジアに資本を投下して収益を上げようとしている。GDPが縮む過程ではさまざまな摩擦と不都合が生じるが、これを上手く代わす方策が求められる。縮みがちのGDPを減少傾向にある人口と上手に融合させることこそが日本人の幸せにつながる。工業社会から情報社会に移行する中、日本に情報社会に適合する新しい産業が幾つも創り出されるはずであり、その道を企業は模索することになる。
社説・適正計量管理事業所の指定促進(03年6月15日号)
計量の世界に関係した団体の一つとして地方の計量協会などがあり、都道府県ごとにこの団体は組織されている。かつては計量器販売事業者を主とした地域支部などが組織されていることが多く、千葉県ほかで会合が持たれている。神奈川県内には横浜市計量協会などがあって活動していたが、色々な経緯を経て現在は川崎市計量協会だけが市単独の計量団体組織として活動している。川崎市計量協会は計量管理運動推進に関して突出した実績を残してきており、ここの計量管理推進運動が全国の計量管理運動と計量法の規定に基づく適正計量管理事業所の指定促進に大きな作用をもたらしてきた。京浜工業地帯の中心部の一つとして重化学工業、電機、食品その他の事業所がこの地で大きく育ち羽ばたいた。
製造および流通に関係する事業のどのような分野においても計量管理はすべての基礎として欠くことのできないものであり、関係してはかりなどの計量器は適正に管理されているのが当然である。事業所の計量管理指針と体系に基づいてはかりが管理されていれば、法的な定期検査を免除されることになる規定を中心に構成されているのが、計量法の適正計量管理事業所制度である。商品製造やサービスの提供に関する管理体系の中に計量管理が含まれることになり、どのような企業であっても計量器の管理、計測の設計と計測結果の管理を事業所の管理体系に組み込むことになる。このような管理体系の中で検査され管理されるはかりが、定期検査を免除されることになり、免除の条件は計量士が関わっていること、検査する機器が備えられていることなどのほか、計量管理規定など作成して、役所に申請して、適正計量管理事業所の指定を受けることが条件になる。
適正計量管理事業所の指定を受けて、はかりの自主管理(定期検査の免除)をすることは、名のある企業にとっては社会的責務であることから、戦後にできたこの計量法の計量管理制度(適正計量管理事業所制度)は大いに普及した。指定は申請して受けるものであり、あくまでも自主的なものである。いま流行のISO9000やISO14000シリーズの認証取得と同じ現象が、適正計量管理事業所制度の指定に関して起こって、計量法のいわゆる計量管理事業所が増えた。
適正計量管理事業所の指定数が横這いであるのが現状であるものの、自主・任意のこの制度の趣旨を理解して指定を受けている企業の社会への貢献は評価される。指定を受けている企業は、適正計量管理事業所の看板を掲げることができるので、それをしていない企業があれば是非ともして欲しいと言うのが神奈川県の計量検定所からの声である。
計量が適正に行われることが企業活動のすべての基礎であり、計量を広く利用することが品質の確保と企業の信用につながる。このところ相次いで発生する食品産業その他の企業不祥事は、結局のところ商品製造とサービスをつくりだす現場の管理マニュアルに外部から不正の手が加えられた結果であるか、管理マニュアルの不完全実施であることがほとんどである。計量管理の完全実施こそ企業が不祥事を起こさない保証であり、商品に必要な品質の確保の保証でもある。計量管理をするものは、企業の上部にこびることなく公平・公正といった計量の神髄に忠実でなければならない。儲けたいがための安直な計量管理は結局は儲けを減らすように作用する。川崎市計量協会は適正計量管理事業所指定の企業、計量士、計量器事業者などで構成されており、元気に活動している。計量管理技術の発展の礎を築いたこの地の事業所と川崎市計量協会活動に期待するとともに、全国各地の計量協会などでの適正計量管理事業所制度の宣伝・普及と指定促進の夢を見る。
社説・頑張ることと褒められること(03年6月8日号)
人が元気に仕事その他人間生活に関するあらゆることに打ち込むことが社会全体で旺盛に行われていると世の中が活気づく。人が自分のなすべき仕事を理解し、その仕事に創意的に取り組み成果をあげることが広がっている社会と経済は元気である。戦後の高度成長期はこのような条件ができていた。仕事はやろうとすれば山ほどあり、そうした仕事の山を崩していくと会社も個人も潤う経済社会の状態である。
頑張った人への褒美にお金が与えられるのが普通であり、お金に満足することは人にとって幸せの一つである。頑張ったことへお金によって報いることのできない世界もあり、この分野では社会的名誉を与えることによって褒美とする。さまざまな表彰制度がそれであり、こうした褒美によって人は自分の頑張りを再確認し、同じ頑張りを明日また続けようとする。
国家褒章を受章した圧力計製造事業の経営者は、「この褒美はよく考えてみれば自分だけの努力ではいただけないもの。周囲の人々の助けがあってこそなので、そうした人々への感謝の気持ちが強く湧いてきた。褒章は人ごととしてしか捉えていなかったが、自分にその章が与えられてみると嬉しさが込み上げてきた」と話していた。
人の頑張りをたたえる表彰制度には社内表彰、団体表彰、省庁の表彰、政府の表彰、世界機関の表彰、またノーベル賞のような表彰もある。表彰された人に自分の名誉を語る場を与えるのは表彰する側の心遣いの一つであるといえる。受賞者が自主的に開くお祝いの会は形を変えた名誉を語る会であり、また受賞者を囲んでのお祝いの会も同じ役割を果たす。
質量分析に関係する業績でノーベル化学賞を受賞した田中耕一フェローは2002年から2003年にかけてもっとも褒められた日本人である。褒められついでに自分の業績を語る場が講演、テレビ出演その他の方法で与えられた。驚きが喜びに変わり、喜びの後で自分の業績を冷静に分析することができるようになった田中耕一氏は、自分が見つけ出した或いは与えられた課題に懸命に取り組むことの大事さを語るようになった。好きだからこそ、好きになったればこそあがる仕事上の成果があることを実証したのが田中耕一氏の業績である。独創的な発想は執念・執着心・粘りあってこそ実を結ぶ。
どのような場面の仕事でも改善・工夫によって業績を伸ばすことができることを田中耕一氏の偉業が物語るものだから、日本人は皆前を向いて励まなければならない。
社説・計量行政の滞りない実施と体制整備(03年6月1日号)
日本の計量制度の設計図は計量法に書かれている。この設計図に基づいて計量行政が円滑に実施・運営されなくてはならない。日本の計量制度の設計図を今一度紐解いてその内容を確かめ、実施に関して不足な所はないか点検することは重要なことであろう。
日本の計量制度の重要なものに適正計量管理事業所制度がある。この制度と計量士制度は連結している。適正な計量の実施に関して重要な制度であるこの適正計量管理事業所制度の利用が、戦後の計量法施行後の普及期以後停滞しているのは見方によれば行政機関の意欲の不足によることになる。法の拘束力のないボランタリーな制度である品質マネジメント規格のISO9000シリーズや同じ環境規格のISO14000シリーズと比較するとき、せっかくの制度の持ち腐れを適正計量管理事業所制度に感ずる。
計量法の制度に関しては他にも活かすべきものがあるはずであるから、行政担当者は計量法の内容をよく吟味したらよいであろう。国際整合性にとらわれるあまり、もしかすると遅れた古い制度に日本の計量制度を合わせてしまい、前進させるべき世界の計量制度を後退させる可能性のあることを心配する。
日本の計量制度史において計量教習所を中心とする行政機関職員教育が上手く行っていた時代には、公務員の会合においても非常に活発な議論があったし、地方公共団体ごとに創意ある計量行政が施行されていた。これが今では、自治体によっては計量法に書かれている最低限の仕事も満足に行われていないのではないか、という指摘が聞こえてくる状態である。しっかりした計量行政に関する教育を受け、また現場での訓練を積んだ行政職員がこの先急速に不足することが必至であるから事態は深刻である。
以上のようなことを考慮すると日本の計量行政が滞りなく実施されるための体制整備を計らなくてはならない。その対策は設計図の作り直しというよりも、現行設計図の図面通りの仕事の完全実施といって良いように思われる。計量行政を後退させないで大きく前進させるために地方公共団体の幹部職員、ベテラン職員ほかの奮起に期待したい。
社説・「計量コンサルタント」制度とその役割(03年5月25日号)
計量器コンサルタントは(社)日本計量振興協会が付与している資格である。計量法で定められた計量器の製造事業または販売事業の届出事業者とその従業員で、5年以上の経験もしくはそれと同等の経歴を有する者が、(社)日本計量振興協会が定めている規定に従った研修を修了することによって付与される。
研修のカリキュラムは@「販売者に必要な計量法と今次改正点の解釈」、A「基礎的計量管理の知識と実際」、B「はかりの検定と定期検査」、C「新しいはかりと最近の動向」「温度計、長さ計、圧力計について」、D「計量行政機関と団体の役割について」、E「計量士の職務について」、F「消費者行政と計量について」、G「度量衡の歴史について」、H実習「簡易修理のやり方について」、Iテストと修了式、というもので、研修期間は夜間研修10日間、講習時間はのべ30時間が基本になっている。
計量法は計量器の販売に関して一部の「特定計量器」については販売事業の届出義務を課している。計量器コンサルタントは販売事業および製造事業の届出事業所に属しているから、自動的にこの分野で計量法の規制を満足する者ということになる。
国際規格のISO9000シリーズ(品質システム)、ISO14000シリーズ(環境保全システム)の世界においては、計量器コンサルタントに対して計量器に関する必要な知識・経験と技術を有する者として扱われ、事業所、工場に出荷・供給されるはかりをはじめ様々な計量器に対して、計量器コンサルタントの名による成績証明書と検査証明書が有効とされる事例がほとんどである。計量器は使用目的にかなうものを調達することになるが、計量器に関する豊富な専門知識を有する計量器コンサルタントの適切なアドバイスを受けることによって間違いのない選択をすることができる。
社説・重症急性呼吸器症候群SARSに備えよ (03年5月18日号)
重症急性呼吸器症候群(SARS:Severe Acute Respiratory Syndrome)禍がアジアを中心に広がっている。東京都感染症情報センターの発表では5月10日時点で7200を超えるSARSの症例がWHOに報告されている。重症例、死亡例もある。当初中国、香港及びベトナム・ハノイから報告されたが、数か国へ拡がりを見せている。また中国、香港を中心に症例数は増加している。不明な点も依然として多いが、この間に多くのことが解ってきた。発症者の多くは(患者に関係した)医療従事者および患者の家族等であり、インフルエンザの様に容易に多数の人に感染が拡大する疾患ではないと考えられる。主要な感染経路としては飛沫感染が想定されている。致死率は14〜15%程度と推計され、回復例も多い。医療従事者に関しても適切な防御策を講じることで、感染を防ぐことが可能と考えられる。4月16日、WHOはコロナウイルス科に属する新しいウイルスが原因と発表した。世界中の多くの保健医療関係者が危機感を持ち、協力してこの健康危機に立ち向かっている。
SARSに関して死亡報告があった国(WHOによる)はカナダが症例数143死亡数22で、以下同様に中国5013、252、香港1683、 218、台湾184、20、フィリピン10、2、シンガポール205、28、ベトナム63、5、その他146、5であり、今後症例数ならびに死亡数は増えてくる見通しである。
推計死亡率全年齢14〜15%で年齢階級推計死亡率は24歳以下1%未満、25〜44歳6%、45〜64歳15%、65歳以上50%以上(WHOによる推計。5月7日のWHOレポートに掲載)である。
SARSは疫学的視点で見ると、2002年11月中国・広東省で異型肺炎が報告されるようになった。2002年11月〜2月までに305人が発症し5名が死亡したと当初WHOには報告されていた。2003年2月下旬、上海・香港等を旅行したアメリカ人が、ベトナム・ハノイで体調を崩し入院した。3月上旬、約20人の入院先の医療スタッフが同様の症状を示した。また同時期に香港の病院の医療スタッフ約20人が同様の症状を示した。3月15日、WHOが緊急旅行勧告を出し、その中でSARSの定義を示した。この時点では「原因不明、抗生物質が効かない、死亡例が出ている、医療関係者を中心に罹患している、他国へ拡がっている」という緊急事態であった。4月2日、WHOより他国への感染拡大を防止するため、香港、広東省(中国)への渡航延期勧告が出された。4月3日、日本では「感染症法」における「新感染症」として取り扱われることとなった(注)。
SARSについてWHOは4月16日、コロナウイルス科に属する新しいウイルスが原因と発表した。感染経路は、主要な感染経路として飛沫感染が想定されている。接触感染(分泌物、排出物などに含まれるウイルスが付着した手で、目、鼻、口等を触ることによる感染)など、その他の感染経路も否定されていない。潜伏期間は2〜10日の範囲で、通常2〜7日間と考えられている。
SARS疑い例(WHO定義の「Suspect Case」に相当)の内容は次のとおり。
(1)平成14年11月1日以降に、38度以上の急な発熱及び咳、呼吸困難等の呼吸器症状を示して受診した者のうち、次のいずれか1つ以上の条件を満たす者。
@発症前10日以内にSARSの「疑い例」・「可能性例」を看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液に直接触れた者、A発症前、10日以内に、WHOが公表したSARSの伝播確認地域へ旅行した者、B発症前、10日以内に、WHOが公表したSARSの伝播確認地域に居住していた者
(2)平成14年11月1日以降に死亡し、病理解剖が行われていない者のうち、次のいずれか1つ以上の条件を満たす者。
@発症前10日以内にSARSの「疑い例」・「可能性例」を看護若しくは介護していた者、同居していた者又は気道分泌物若しくは体液に直接触れた者、A発症前、10日以内に、WHOが公表したSARSの伝播確認地域へ旅行した者、B発症前、10日以内に、WHOが公表したSARSの伝播確認地域に居住していた者。
SARS可能性例(WHO定義の「Probable Case」に相当)はSARS疑い例のうち、次のいずれかの条件を満たす者。
@胸部レントゲン写真で肺炎、または呼吸窮迫症候群の所見を示す者、A病理解剖所見が呼吸窮迫症候群の病理所見として矛盾せず、はっきりとした原因がないもの、BSARSコロナウイルス検査の1つ又はそれ以上で陽性となった者。除外基準は、他の診断によって症状が説明できる場合は除外する、とされている。
日本にはSARSの症例が発生していないから暢気でいられるものの、症例が報告されたら大騒動になること必至であり、また症例は間違いなく報告されるから、今からその準備をしなくてはならない。SARSの症例は「38度以上の急な発熱及び咳、呼吸困難等の呼吸器症状を示し」とあるように、体温がその症例の条件になる。「発熱している者SARSの疑い有り」ということから、中国その他の国では、感染地域の住民の体温を強制的に測定しており、その際に非接触式の温度計あるいはデジタル式の体温計が使われている。
中国、香港および台湾などでは体温測定が励行、またある条件の下では強制されており、このため関連の体温計に急激な需要が発生して、品薄状態がつづいている。日本でSARSが症例報告があれば大騒動になり体温計、マスク、消毒関連の器具などが同じように品薄になると思われる。すでにSARS対策のマスクをしている人の姿があるので、体温計なども用意しておくとよい。
体温測定は人の健康をはかることの基本であるから、SARS禍を機に体温計をいま一度点検して、使えないような状態であれば補充しておくと良いであろう。
(注)新感染症:感染症法で定められている疾患は1〜4類に分かれているが、新感染症は1類感染症(エボラ出血熱等)に準じた扱いとなる。
社説・人の身体の要素をはかる(03年5月11日号)
人の健康をはかるのに様々な指標が用いられる。体温をはかる。血圧をはかる。この二つは簡単にはかれることから病院では診察の前提にしている。病院での診察において体重をはかることは絶対的条件にされていないものの、身長と体重を自己申告の形であっても医者によって把握される。
成人病の判定の前提になるのが体重で、肥満は成人病の温床になり成人の健康にとって肥満は何ものにもまさる大敵である。人には適正な体重があり、その体重値は人ごとに異なり一定というものはないが、多くの人の場合にはある範囲におさまっていなくてはならない。現代人は自分の適正体重を心得ており、体重を適正な状態に維持・制御する知恵を持つようになった。現代人は食生活が過食になりがちであり、また身体を活発に動かすこのない生活形式に変わったこともあって成人病を多発するようになった。成人病は罹患する本人に不幸をもたらすと同時に医療保険の増大の原因にもなるからこれを撃退することが個人と社会の双方にとって都合がよい。
体重をはかることは昔からおこなわれてきた。いまの世界では体重をはかるだけではなく、その体重の要素もはかることができるようになった。骨の量、筋肉の量、脂肪の量をはかることができる。脂肪の量についても皮下脂肪、内臓脂肪と細かにはかることができる。
人は必要に応じてはかるのであるが、はかることによって色々なことが判明する。人の身体をはかることの一つに体重をはかることがあり、その体重の要素を非常に細かにはかる発想が生まれており、そのための技術が発達している。ノーベル化学賞を受賞した島津製作所フェローの田中耕一氏の発明も人の身体の要素をはかることであった。
社説・計測データの巧みな演算処理(03年5月4日号)
企業が商品を供給していた顧客のニーズに適合した新しい商品を開発して供給する。その商品は新商品と名が付いても、新しいのは名前ばかりで市場を創りだすことなく命尽きるものもある。また新商品という名前は付けられなくても、いつの間にか新しい概念の新商品に成長して新しいマーケットを創り出し、企業発展の礎となる商品もある。商品は需要家に受け入れられなければならない。ニーズに適合した商品でなければ売れない。しかし需要家がその商品を知らなければせっかくの商品も売れない。良い商品を創って、その商品を需要家に知らせて販売につなげるところまで行ってこそ商売は成立する。
計量計測機器はさまざまな種類のものが造られているものの、その全てが周知されているわけではない。購買者が欲しいと思う計量器を探し出すのには様々な方法があり、その一つにインターネットがある。ほとんどの計量計測機器企業がインターネットに自社商品を掲載するウエブサイト(ホームページ)を持っている現状であるから、計測機器のほとんどをインターネットで探すことができる筈なのに、現実はキーワード検索に上手く引っかかってこない。
日本計量新報社が運営するウエブサイトの『計量計測データバンク』は、計量計測に関する情報のデータベースになっており、すべての計量計測情報はここを足場に検索されるといっていい。早くに始めて情報を大量に蓄積してきた『計量計測データバンク』であればこそなしえていることであり、計量計測の世界は『計量計測データバンク』の中にリンクの形式などをとって築かれているといっていい。
したがって計量計測に関する様々な経済指標、法令、技術その他すべてのことが『計量計測データバンク』にあり、また計量計測機器のすべての商品もここを足場に検索することができる。その意味で『計量計測データバンク』は計量計測機器の需要家と製造者を結ぶ機能を果たしており、商品を買うときに最大に頼りになるウエブサイトである。
企業の側からは製造する計量計測機器はそこそこ売れて息が長いのがいい。商品は利益率が良くて、他社が追随できないものが望ましい。企業は皆このような商品を開発したいのである。
ところで、計量計測機器の新商品には基本的に二つのタイプがある。一つは旧来の商品の改良型で、既存マーケットの需要開拓型といえるもの。もう一つは新しい概念の商品で新規の計量器需要を創造するものである。どちらの商品も新しい技術を取り入れて創り出されるものであり価値あることに変わりはないが、新しいマーケットを創り出す商品の開発こそは計量器の市場を拡げることになる。
計量器の開発改良と市場規模拡大の歴史は以上のことに尽きることになり、これまでも3次元測定器、料金計算方式のガソリン計量器、電子料金はかり、自動値付け機、自動組み合わせはかり、体脂肪測定はかり、その他が発明されて計量器市場を拡大してきた。これらの新商品に共通することはパソコンと計測データの巧みな融合である。この延長線上で次にどのような新商品を開発して商売として成功させるか、計量計測機器企業の腕の見せ所であり、企業成長の鍵の一つでもある。
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