計量器を使ってモノを計る際にどれだけの正確さが求められるかということは、多くの場合、あらかじめ経験的にあるいは科学的に決められている。 自動車をつくる場合には車体の各部の精密さとエンジンブロックの部品の精密さではその設計精度が異なる。木造建築の場合に柱などの精密さは1ミリメートル単位までは要求されない。 計る対象となるモノとは物象の状態の量であるなどと難しく考えることはない。長さの精密さや質量の精密さは身近な存在の計測である。質量とは普通には重量とか目方といわれていることであるものの、質量を計るハカリは日本の場合には地域による重力値を補正して用いる。 ハカリは使用地にあわせて重力値に対応する補正がされているはずであるが、これが何かの手違いなどでなされていなかったり、工場移転などで別の地域にハカリを移動させたときに問題が起こる。重力値にあわせてハカリを調整する必要が生じるのは1000分の1以上の精密さをもつバネ式のハカリや電気式でも同様の基本原理で作動する電気抵抗線式などの多くのハカリである。ヤジロベー式のつりあわせの原理で質量を計る機械式の天びんなどは、あらかじめ質量が求められている分銅と比べて質量を求めるので地域による重力値の補正をしなくてよい。1000分の1というのは日本列島の重力値が及ぼす影響の度合いがこの程度であるということであり、一般にはこの影響の度合いを知らされると大きいと感じるようだ。 電気式のハカリとして最も普及していて一般的な方式の電気抵抗線式と呼ばれるロードセル式のハカリは、機械仕掛けであるバネ式ハカリと同様に地域の重力値の影響を受ける。同じ1キログラムが1グラムほどの差を生じさるのが、地域の重力値の差である。これを補正するためにはある標準となる地域で1キログラムなどになるように計られた分銅を用いてハカリを補正することである。使用地域がわかっていれば電気式のハカリはメーカーなどの出荷時にその地域にあわせて調整される。 家庭で漬け物をする場合に野菜や塩の質量を計る場合にはさほど精密さの高い計量をすることはないものであり、ハカリの精密さや正しく作動しているかを確認する場合には1キログラムなどの分銅を用いるとよい。そして1キログラムの表示にズレがあれば調整して使えばよい。 ハカリを取り引きや証明に使用する場合には計量法の規定によって検定付き(多くの場合にはメーカー検定)を用いなくてはならない。検定付きの電気式のハカリの場合はハカリの目あわせともスパン調整ともいわれる調整をすることは修理行為になっているため普通の使用者はこれができない。バネ式ハカリの場合にはゼロ点調整をする機能がついていて使用者はこれを行ってこのハカリを使用する。ハカリが正しく作動していてもバネ式ハカリでは使用者がゼロ点あわせをしていなくては表示される質量はゼロ点がずれている量だけプラスかマイナスになる。 計量法は取り引きと証明にかかわって適正な計量の実施を確保するためにさまざま規制を課している。ハカリの場合も同様であり、取り引きと証明にハカリを用いる場合にはメーカー自己検定など検定付きのハカリを使用することを義務づけている。 その検定付きハカリだから絶対に正しく正確だと考えてはならない。検定の条件を満足し検定の付いたハカリを使用しても使い方を間違えれば誤計量をしてしまう。 薬局で薬を計るときにグラム表示で行うべきところを匁(もんめ)表示にしたために3・75倍になっていて、その薬を渡してしまうと事故が起きたことを教訓にしてハカリの使い方の基本を確認しなくてはならない。誤計量ということでは読み取り後に桁違いで筆記する、桁違いで読み取ってしまうなどが生ずる。 漬け物をするのに予定量の10倍の塩を投入すると使い物にならなくなるが、そのまえに作業者の多くは変だと感づく。1回の投薬量が4倍ほどになると大概の薬剤師は変だと思うはずだが、そのハカリがグラムの単位で薬品を計っていると思いこんでいる人はグラムの3.75倍で表記される匁(もんめ)をそのまま受けとめてしまうこともある。 ハカリの精密さの在り方は計る目的によって決められる。何が何でも精密であれば良いということではない。質量の計測の場合にはグラム単位の千倍、万倍、十万倍、百万倍になると測定環境と測定技術など要件を整備しておかなくてはならない。ハカリの精密さそのものよりも勘違いなどによる誤計量こそが恐るべきことであり警戒を要する。 はじめから誤魔化そうとすると食品の消費期限その他に手を加えることができ、このやましさやあくどさがばれると企業は生命を終えることになってしまう。同様に悪意をもって計量することなど論外であるが、善意で計量していながら勘違いなどでも間違った計量が行われないようにしなければならない。 計量器の使い方を取扱説明書をよく読んだりして覚えること、関連して計量に関する基本知識は技術を学ぶことである。薬剤師の仕事の基本の一つであるハカリを使うことについては、全自動式といってもよい電子式のハカリが普及したので機械式の天びん時代の技術はいらなくなったとはいえ、ある程度の計る知識や技術が求められる。薬品をグラム表示で計るべきところを匁(もんめ)表示で計って予定量の3.75倍の計量をした間違いは、表示切り替え方式のハカリに発生する誤計量の要因であることの教訓である。