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日本計量新報 2007年4月29日 (2673号)

計量の技術を世に知らせる『雑学図解 測る技術』は面白い

「測る」(はかる)ということ、測るという技術に対する国民一般の関心に応えようという試みとして黒須茂氏が著者ならびに編者となって『雑学図解 測る技術』(ナツメ社、電話03-3291-1257、税抜き価格1450円)を世に送り出した。身近にある測ることの実際の内容を手品のように説き明かすマジックにも似た内容であり、たとえば人の体重は普段は重さの概念で認識されているが、宇宙という世界で物事を考えようとすると重さとしてではなく質量としてとらえないとさまざまな不都合が生じると述べている。
 人の体重の表記のことは何とも難しい。計量法改正で質量と重量のことを知った朝日新聞は「小錦の体重は○○N」(Nはニュートン)と漫画にした。お米や人の体重などモノの重さは計量法ではキログラム(kg)として表記する決まりである。質量と重量を区別しておかないと重力加速度の違いによってモノの重さがかわる世界のことがわからなくなるからである。無重力の世界の人の重量はゼロになり、重力加速度の小さな星では小さくなり、それが大きな世界では大きくなるからである。人の体重は重力がゼロの世界でも地球にいる状態と同じであるから、重力値に関係しない計量の単位としてキログラム(kg)を設けてこれを質量と決めた。人の体重は質量としてのキログラム(kg)で表記される。朝日新聞のコラム漫画のように人の体重はニュートン(N)として認識することもでき、重力加速度の違わない地域や標高の場所であっては体重比較として機能させることができる。しかし人の体重やモノの重さは重力加速度の影響を除外した形式としての質量として扱うといろいろと便利であるから、人の体重やモノの重さは質量としてのキログラム(kg)としては表記する。質量の単位としてのキログラム(kg)は水1リットル(1またはL)の質量を基にして制作された質量原器としてのキログラム原器も質量である。質量の単位キログラムを原器そのものに依拠する方法から科学的に不偏な方法に切り替えるための研究と作業が進められている。
 計量単位のニュートン(N)は固有の名称をもつ SI組立単位として位置づけされている。SI基本単位は長さ、質量、時間、電流、熱力学温度、物質量、光度の7つである。
1ニュートンは、1キログラムの質量をもつ物体に1メートル毎秒毎秒(m/s2)の加速度を生じさせる力と定義されている。ニュートンは組立単位であり、基本単位で書き表すと N = kg・m/s2(キログラムメートル毎秒毎秒)となる。重量が重力によって2つの物体の間に働く力と定義されているので、ニュートンはまた重量の単位でもある。地球表面において質量1キログラムの物体の重量は約9.81ニュートンである。質量 9101.94g の物体は約1ニュートンの重量を持つ。力の単位はニュートン(N)であると決めた国際単位系は関連の物理現象の圧力の単位をパスカル(Pa)として決めている。1パスカルは、1平方メートル(m2)の面積につき1ニュートン(N)の力が作用する圧力または応力と定義されている。国際単位系(SI)のニュートンはイギリスの物理学者アイザック・ニュートンに、パスカルは圧力に関する「パスカルの原理」に名を残すブレーズ・パスカルに由来し、物理学の巨匠をたたえる気持ちからでたものであるが、これをやっていくと幾つもの計量単位が科学者の名前になってしまって簡潔に意味を表現しない非科学性を帯びてしまうので、これ以上科学者の名前を付けないという良識ある国際度量行員会などの約束事が何度もくつがえされている。
 計量のお話しは質量と重量さらに力のことに少しふれただけでもややこしいことであるが、黒須茂氏の著述はちっともややこしくない。同氏の計量の知識、いや測る技術に関する知識は『雑学図解 測る技術』に盛り込めないほどにあふれている。小山高専の教員として長く教鞭を執ってきた工学博士の知恵と能力を発揮する機会はこれからである。


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