日本の計量行政機関の業務に「計量思想の普及啓発」という項目があり、ある県とある市(特定市)ではこの業務を次のように説明している。 ある県の場合。「現在の日本では、ほとんどの人はスーパーで買ったお肉の内容量(質量)の表示やガソリンスタンドの燃料油メーターの表示を疑うことはありません。このように、正しく計量することが私達の生活の中にしっかりと定着していることは、国をはじめとした計量関係機関の日々の地道な活動による成果と言っても過言ではないと思われます。計量検定所では、県民の方に計量制度の重要性を再認識していただけるよう、計量思想について様々な普及啓発事業を実施しています。(1)計量強調月間事業=県では、11月1日の「計量記念日」に併せて、県民が広く計量への知識、関心を持っていただくため、11月を「計量強調月間」に設定しています。関係事業は啓発チラシの街頭配布の様子(駅前)、「正しい計量運動ポスター」コンクールの開催と表彰式の挙行、入選作品の巡回展示、(2)計量モニターによる商品量目の調査=県内にお住まいの主婦の方など30人に計量モニターをお願いし、1ヶ月間、商品量目の調査を行い、報告会を開催しています。(3)「くらしと計量コーナー」の設置=「くらしと計量」をテーマに消費生活展などに参加し、家庭用計量器の無料点検、パネル展示及び重さ当てクイズを行っています。」 ある市の場合。「計量思想の普及啓発事業。(1)買い物と計量=「風袋は商品ではありません」お肉のロウ引きやパック商品のトレーやラップなどの包装、ワサビやタレ等の添え物のことを風袋(ふうたい)といいます。風袋は商品の目方に含まれませんので、風袋の重さは全体の重さから引かなくてはなりません。正しい風袋引きが行われず、風袋が商品の目方に含まれていたとすると、これだけ損をしたことになります。(例)100g450円の肉を200g買った場合、もし風袋(トレイ)の重さ「12g」が含まれていたとすると、450円×12/100=54円となり、54円分余分に支払ったことになります。(2)特定計量器の有効期限、ガスメーター(都市・プロパン)10年、水道メーター8年、電気メーター(家庭用)7年または10年、燃料油計(ガソリンスタンド等)5年または7年、タクシーメーター1年(※家庭で使用しているメーターには有効期限があります。期限が切れていると事故の原因となりますので、確認してみましょう。)(3)一日計量巡視=11月1日。11月の計量月間の行事として、11月1日の計量記念日に消費生活モニターに「一日計量巡視員」を委嘱し、計量器の適正使用等の巡視を市内店舗にて行い、商品の量目検査を行いました。(4)市役所ロビー展=10月30日〜11月2日、市役所1階ロビー、内容は計量啓発パネル展示・今昔の計量器展示など、(5)計量イベント=11月19日、市民文化センター前の市道、内容は計量クイズ、啓発パンフレット配布」 ある市の「計量思想の啓発・普及」事業における「計量モニター」に対する説明として「計量に対する理解を深めていただくために、100名程度の消費者の方々にモニターを依頼し、商品の量目についての調査を行っています」と述べている。 日本の計量思想の普及と啓発事業とは大体以上のようなものである。ほかの事例としては東京都における棒ハカリをつくる計量教室、青森県での弘前大学との共同しての理科と計量教室が小学生を中心対象に実施されている。計量の考察や実験の作文の募集と表彰も行われている。 計量行政機関の計量思想の普及事業にはそれぞれの地域の計量協会が協力して実施していることが多い。 現在行われている「計量思想の普及啓発事業」は全体としては、計量行政に対する地域住民の理解を促進するために行われている。地方公共団体の計量行政は(1)正確な特定計量器の供給として、計量関係事業の登録及び届出、特定計量器の検定、タクシーメーターの装置検査、基準器の検査、(2)取引・証明における計量の安全確保として、特定計量器の定期検査、計量証明事業用計量器の検査、特定計量器及び商品量目の立入検査、(3)計量思想の普及啓発、(4)計量管理の推進、指導などである。 日本の行政は「規制緩和と民間活力の活用」の言葉とあわせて歳入不足を歳出削減で埋め合わせるために行政費用を切り詰める行動に出ており、このあおりを計量行政は大きく受けていて計量法を定めて実施を求めている事項が必ずしも十全に行われていない。行政機関による計量行政の実質的なサボタージュが行われており、これは憂うべきことである。 北陸地方のある県の計量行政担当の職員が述べた次の言葉は日本の計量行政の現実を見事に表現している。 「公務員生活最後の5年間の職場として、計量検定所にやってきて仕事をしているが、公務員生活でこれほど夢中で一生懸命やれる職場はなかった。計量行政の仕事のあれやこれやをやろうとすると本気にならざるを得ない。自分が手を抜けば計量行政の手が抜けてしまう。それがわかると手は抜けないし一生懸命にもなる。やり甲斐もあるし、気持ちは非常に充実している」