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日本計量新報 2008年4月27日 (2720号)

計量制度はこの国の形をつくる礎の一つである

ハカリをはじめとする特定計量器の検定と検査などにかかわる証紙販売の数が激減し、あるいはこれがほとんどなくなった。これによって影響を受ける立場にあるのが、都道府県ごとに計量検定所などの組織に付随するようにして存立してきた計量協会である。そこそこの規模の県であれば、この証紙販売によって1名の事務局員の人件費をまかなうことができるのが普通であった。
 これに加え、質量計(ハカリ)、血圧計、体温計を販売する計量器販売事業者が登録制であって、その更新のための諸手続を実質的に計量協会が代行する仕組みになっていたから、その代行を求めるためにも協会の会員になって会費を納めるということが続いていた。
 登録制が届出制になって血圧計と体温計の販売に関する登録の義務がなくなったために、登録更新の便宜から協会に留まっていた販売系の会員の退会が続き、計量協会の存立基盤は会員数と会費ほかの収入の面から崩壊状況にある。
 計量協会の使命は計量思想の普及のためにある、という言葉が空疎になってきているのも今の時代の状況である。
 計量と計測の果たす技術的な側面での役割と機能は今も昔も変わらない。その一方で、計量制度という社会制度は時代の状況にあわせて内容を変えることになる。
 商取引にかかわる計量器の性能の保持が社会の安定を確保するために必要であるから、ハカリをはじめとする重要な計量器を国が定めた規則にしたがって製造し、検査し、世の中に供給する仕組みが、計量法によってつくられる。
 その計量法は、検定によるハカリの性能保持のための制度として、ある基準を設けて役所が打刻する検定証印と何ら変わることがない効力を持つ基準適合証印を付けることができる、メーカー検定の指定製造事業者制度を新設した。これにより、量産型のハカリは実質的にはメーカー検定に切り替わった。役所が行うハカリの検定の場合には、計量協会を通じて証紙を求め、協会には証紙の販売手数料がもたらされていた。量産型ハカリメーカーの小さな会社でも、役所への支払いとなる証紙の購入費用が年間でも軽く1千万円を超える。ガスメーターの会社も同様で、大きな企業となると年間1億円を超える。管理経費は実質上かからない。製造工程に国が定める基準を組み込んでいることは当然であるからだ。
 この証紙販売はメーカー検定の基準適合証印の場合には計量協会と無縁となり、計量器の検定に付随する証紙販売の手数料がもたらされなくなった。
 そして計量協会の会員も実質的にいなくなった県が幾つかある。そのような県では計量検定所の法律に基づく業務も弱りがちであるものの、地方公務員の使命感と情熱によって曲がりなりにでも維持されているのが実情である。地方公共団体には行政運営する費用が少ないから計量行政に回す予算は減らすしかないということで、現状でも計量法の規定を満足する地方計量行政が実施できないのにこれに追い打ちをかけることが行われている。そのようなことで地方の計量行政機関から聞こえてくるのは悲鳴ばかりであって、夢やロマンなどを語る者はいなくなってしまった。
 国の骨格をなす一つの制度として計量制度がある。恐ろしいほどのロマンチストであった田中舘愛橘は日本の物理学の草創期を生きた人であり、ヘボン式ローマ字の普及で有名である一方で、日本から初めて選ばれた国際度量衡委員としてメートル法の国内への普及と国際統一に大きな功績を残している。日本の計量制度はこの国の形をつくる一つの礎(いしずえ)として不抜の精神で貫かれていなければならず、それを成し遂げるのは人と組織であり、その人と組織はつねに錬磨・育成されていることが必要である。
 しかし、そうした必要を満たす体制が日本に欠けるようになってから日本の計量制度の仕組みが動揺し始め、国の事務であるべき計量の事務を地方の事務としたために、役所による計量法の実務を放棄するという計量法違反の行為がまかり通るようになった。すなわちハカリの定期検査を実質上放棄する事態が蔓延し、定期検査対象のハカリがどこにあるのかもつかめない状況である。
 そして、その県の届出製造事業者ほか計量器事業者の把握もできなくなっていて、また届出義務は計量器販売者の側にあるとしても、その義務に違反する者を指導監督する意欲も体制もないのが地方公共団体の計量行政機関である。計量行政の費用をどのようなことがあっても確保することが計量行政の現場にいる公務員の責務であり、その費用を確保するのは地方公共団体の責務である。
 貧しても鈍さぬように計量の心を保持することが、計量思想の何たるかを知り、また説く者のつとめであろう。


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