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日本計量新報 2009年10月18日 (2794号)

国と地方公共団体の健康は健全な計量行政によってもたらされる

09年8月30日投票の衆議院総選挙の結果、民主党が圧勝して自民党が政権から退き、民主党の政権が誕生した。10年7月の参議院選挙までに民主党政権の失政がなければ、またしても民主党の勝利と自民党の敗北となるだろう。
 一党独裁を画策して小選挙区制導入をはかった自民党の選択が裏目に出たのは皮肉であり、自民党をぶっ壊すと見栄を切った小泉純一郎自民党総裁のその言葉通りに、郵政選挙の圧勝とその後の奢(おご)りは、自民党を自滅させた。平家の滅亡と通じると見る。
 鳩山由紀夫内閣閣僚の亀井静香氏の旧自民党体質丸出しと「上から目線」は災いになる。福島瑞穂大臣の分を超えた張り切りぶりは見苦しい。亀井静香氏と福島瑞穂氏のあらぬ思惑は、内閣に統一性を欠く要素となってしまうのだが、この二人に自重を求めても聞き入れられることはないだろう。
 自民党政権は官僚行政の土台の上に築かれていた。戦後復興に官僚行政、あるいは官僚政治は大きな役割を果たしたのであるが、今となっては戦前の軍隊の組織と同じように軍と高級将校の組織の維持そのものが目的化したのと同じ様子になっているから、公務員制度改革の維新をなさねばならない時期にある。
 経済産業省の行政施策に例をとると、クリントン政権下の情報ハイウェイ政策になぞらえた技術ハイウェイ政策がうたわれていたが、これがいつの間にか消えている。局長などT種試験合格者の得点のために政策がつど打ち出されては変更される政府の行政施策では、役人の組織が栄えて国が滅ぶ。この滅びの構造に国民が変換を求めたのが、09年8月の総選挙の結果である。

 計量行政の分野でも、多くの場合、計量行政の責任者ごとに何らかの「成果」を残すために、改革と称して改悪の手が入れられてきた。
 行政責任者の意を体するように、計量行政審議会の委員や関係の組織の人々が一見もっともな論理をたてて制度をいじりまわす。計量行政が機関委任事務から自治事務に変更されたのは、その担当者が役所内の関係する組織の委員になっていたことと無縁ではない。計量行政が自治事務に馴染むのか、そして自治事務にした場合にどのような行政形態になって本来の行政事務が真っ当に遂行されるのか、シミュレーションされることもなく抜き打ちで変更がなされた。その結果、自治体が実施する計量行政には地域によっては大きな綻びがおきており、その実態は目を覆うほどである。年金行政を行う社会保険庁の業務怠慢と瓜二つのことが計量行政にも発生していて、大げさに言うと、計量行政機関が計量法違反をしていると指摘される状況にある。
 ハカリ(質量計)の定期検査の実施の主体が地方計量行政機関(地方庁)にあるにも関わらず、検査の実施状況には大きな抜け落ちができている。歴史的視点を欠く政策決定を、おべんちゃらあるいはおもねりによって後押しし、計量記念日を6月7日から11月1日に変更してしまったことはブラックユーモアにしかならない。この変更で、世の中に定着した計量記念日が実質的に消えたと感じている計量関係者もいるだろう。
 民主党政権の下で、国の行政として要らぬものはうち捨て、大事なものは残す改革が推進されることになる。
 時代の必要、あるいは社会の必要に応じて行政が膨(ふく)れてきたとき、真に重要な骨格を選び出す必要が生じてくる。日本でいえば、明治政府が科学振興の土台として、諸法の整備とともに度量衡法を制定して、計量行政の確立を優先したことを確認しておこう。
 江戸幕府の時代には枡(ます)の容積などの度量衡制度は藩ごとに違っており、甲斐の国でも甲府付近と都留地方に違いがあることが認められていた。明治政府は日本国内の度量衡制度を統一し、改めて一元化したのである。
 また、フランスの革命政府が国の威信と国際貿易などを考えて、世界に共通する計量単位としてのメートル法制度と提唱しこれの普及を図ったことも確認したい。
 科学技術と産業と国民生活の基(もとい)をなす計測を実現するための計量標準の確立と、その標準の円滑な供給や精密さの相互確認のためのトレーサビリティーの推進は、社会や時代を超えた普遍の技術行政として存立するものである。消費財あるいは生産財の商取引における信頼確保は、信頼と安心と取引の平等のためになくてはならない。行政が公の機関で実施すべきものであることは国際社会の共通認識であり、国際的な計量行政の取り決めでもある。
 国のありようは度量衡制度と度量衡行政のありようでもある。膨れすぎた行政を萎(しぼ)ませようとするときに、計量行政を他の行政と同様に考えて同じ比率で縮小することなどがあれば、それは国を滅ぼす道筋を選ぶことになり、ひいては地方公共団体を滅ぼすことにもなる。なぜなら、確かな骨格のないところに健全な体はできあがらないからである。
 国と地方公共団体の健康は健全な計量行政によってもたらされる。

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