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日本計量新報 2011年2月27日 (2859号)

計量行政の完全実施は社会活動の効率向上をもたらす

コンビニエンスストアで買い物をするとき、客は店員に直接商品の代金を手渡せばいい。1本153円のドリンクは、バーコードを読み込めばレジスターに153円の表記が出る。客はその代金を支払い、店は153円の売上げを記録する。レジスターがない露天での販売を含め、通常の客と売り主の関係は1対1と単純で何者も関わることなく取引が成立する。
 しかし、時に関係が複雑になることがある。ある共同組合のイベント会場では、代金を受け取る者に対して2人の立会人をつけ、金銭を代金箱に入れる者に1人の監視者をつける体制をとった。前年のイベントで、モノの数とお金が釣り合わず内部の者による盗みや着服の疑いが発生したことが原因である。1件当たりの金額が2千円ほどのものの販売に対して、普通ならば1人で代金を受け取って代金箱に入れればよいものを、3人追加の要員を配備したのである。相互不信の関係のもとでは、このようなことが実際におこる。

 客と販売者の取引の仲立ちをするハカリは、正しいことが前提になる。どこかの国の風刺画に、ハカリの右側で商品の売り主が品物が重くなるように皿に力を加えていて、左側では買い主が、軽くなるように力を加えているというものがあった。商品売買の際の客と売り主の心理を表現していると同時に、そのような不正が実際に行われていることを示していると思われる。
 日本では、商取引に使われるハカリは計量法の規定によって検定を受けている(メーカー自己検定の基準適合証印は検定証印と同等の効力をもつ)ことが求められ、その後は2年に1度の検査(定期検査)を受けて合格しなければならない。
 定期検査の実施内容は、役所による直接の検査、役所から指定された指定定期検査機関による検査、計量士による代検査の3つがある。適正計量管理事業所に指定された事業所のハカリは、会社所属の計量士が実施する定期検査に相当する検査をもって、定期検査を受検して合格したものとみなされる。定期検査における検査対象となるハカリと基準器との器差の合格条件は、検定における器差合格条件の2倍(精度が2分の1)となっている。


 経済の安定や世の中の平和のためには、取引や証明に使用されるハカリは検定合格品を使うことを徹底することが求められ、同時に使用中のハカリには定期検査の実施がしっかり行われることが大事である。しかし、地方公共団体ではハカリの定期検査の完全実施のための予算や人員などの配備が不十分であるために、定期検査漏れが目を覆うばかりに増えている。
 東北地方のある特定市では、自らの責任で実施することになっていた定期検査を全く行っていなかった事例がある。配分された計量行政費に充当する内容だけしか業務を実施できないという理由で、わずかの業務しかしていない計量行政機関が現に存在し、同様の組織が増えている。
 売り主と買い主が、その仲介者であるハカリを信用できないとなると、取引そのものに不信感が残り、社会全体にぎすぎすした感が増える。相互に信頼できる状態が一番効率的であることは明らかである。
 ハカリを使った売買が、気持ちよく明瞭であるためには、計量法が規定した商取引に付随するハカリを含む計量器の検定や定期検査などが十全に実施されていることが条件になる。この状態が崩れると定期検査に合格していないハカリが数多く世に出回り、取引への信頼性が損なわれる。計量と計量行政の社会基盤性は、現実から乖離したものになる。
  計量行政が十分な体制を持ちしっかりと業務を実施することは、直接には目にみえないが社会活動の効率をあげることになる。

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