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日本計量新報 2011年9月18日 (2886号)

震災で流出した放射性物質がもたらす汚染の影響と現状

2011年3月11日に発生した東日本大震災によって東京電力福島第一原子力発電所の設備が破壊され、生物に有害な放射性物質が大量に流出した。事故の後にも炉心冷却に使用された冷却水など、大量に汚染水が発生した。汚染水に対しては除染装置が稼働するようになり、状態は安定的に見えるものの、排出される放射能を封じ込めるまでに難題がいくつもある。本当の意味での事故の収束はまだ先のことである。事故が起きてしまった後に、原発施設の様々な問題点が明らかになったが、過去は修復できない。今できることは、被害の実態把握に力を尽くし、その影響がどうであるか評価・判定して対策を講じることだけである。

放出された放射線の総量については、経済産業省原子力安全・保安院が2011年8月26日に試算を公表している。福島第一原発の1号機、2号機、3号機から大気中に放出された放射性セシウム137の総量は1万5000テラベクレル(テラは1兆)であり、1945年(昭和20)年8月6日に広島市に投下された原子力爆弾の9テラベクレルに対して、168・5倍に相当するという。
 また、ヨウ素131は福島が16万テラベクレルで、広島の6万3千テラベクレルの約2・5倍になる。
 試算値は衆院科学技術・イノベーション推進特別委員会に提出された。原爆は「原子放射線の影響に関する国連科学委員会2000年報告」、福島第1原発は、6月に国際原子力機関(IAEA)に提出された政府報告書の試算を基に作成された。原子爆弾と今回の事故を、放出量のみで単純比較することはできないものの、168・5倍という数字は、重いものがある。

 汚染の状況は、(独)国立環境研究所(茨城県つくば市)の地域環境研究センター長大原利眞氏らが8月25日に分析結果を発表している。これによると、東京電力福島第一原発の事故で放出された放射性物質は、東北だけでなく関東や甲信越など広範囲に拡散し、ヨウ素131の13%、セシウム137の22%が日本の陸地に落ちたという。これは大気汚染物質の拡散を予測するモデルを使って分析したもので、3月11日の事故発生から3月下旬までに、放射性物質が東日本でどう拡散したかをシミュレーションしている。放射性物質は風に乗って移動し、風や雨の影響で地面に舞い降りて沈着した。北は岩手や宮城、山形の各県から、南は関東を越え静岡県にも達し、新潟や長野、山梨の各県にも到っていた。ヨウ素131の沈着は風の影響が大きく、セシウム137は風に加え雨とともに落下する。一部の地域で問題になっている局所的に放射線量が高い「ホットスポット」の出現は、雨の降り方などが影響したと考えられるという。
 生物には、放射線による汚染がどのくらいあるのか。野生の動物に与える影響の一例として、8月7日に宮城県角田市で捕獲された野生のイノシシの肉から、国の暫定基準値(肉1kg当たり500ベクレル)の4倍以上にあたる2200ベクレルの放射性セシウムが検出された。県は当面、野生鳥獣の肉を食べないよう県内全域に通知した。

 放射線は目に見えないので、実際の放射線量は測定器を使わないと分からない。大量の放射線を短時間で受けても、弱い放射線を長時間受けても病気になり、死亡することもある。受けた放射線の総量が大切で、量が少ない場合、発症率は確率的には低いことを理解することが大事だ。受ける放射線量を最小限にするためには、体の外側からの外部被爆と飲食による内部被爆との両面に注意しなければならない。
 内部被爆の場合、物質は体内で放射線を発し続ける。放射性物質の原子は不安定な性質を持ち、アルファ線やベータ線、ガンマ線などの放射線を出しながら、別の安定性の高い原子へ変化していく。この過程で放出されるのが放射線である。時間の経過とともに放射能が弱まり、半減期で元の半分になる。完全に放射能を失うまで放射線は放出される。
 資料として、日本科学者会議のwebページに掲載されている主な放射性物質の半減期を記す(資料1:資料は全て3面に掲載)。物理的半減期とは、放射性物質の量が半分になる期間のことで、生物学的半減期とは、体内に取り込まれた放射性物質が、代謝や排泄作用、主として大小便で排泄され半減するのに要する期間、実効半減期とは、人体に入った放射性物質が物理的半減期と生物学的半減期の両方で半分になる期間のことである。
 放射能汚染された食品に関する危害の指標として、厚生労働省は暫定基準値を決めて摂取制限を設けている(資料2)。発生している放射能への対応は、地域によって異なる。食品の放射線を減らす方法は、(財)原子力環境整備センターが「食品の調理・加工による放射性核種の除去率」(1994)にまとめている(資料3)。

 計量計測に関連する事柄では、今後の検討課題として、放射線測定にかかる標準の定め方、放射線測定器における計量のトレーサビリティの確保、正確な測定方法、そして計量証明に使用する場合の測定値の取り扱い方などがある。計量に関係する行政の担当部署は、対応が受け身であってはならない。地方公共団体など計量行政機関の一部から、放射線測定器に関して国が関与するような法規制を希望する声が、公式な会合の場で出されている。
 東日本大震災以降、社会的な要求に応えるため急速に放射線に関係する研究・取り決めが行われている。『日本計量新報』でも、記事や解説を多く掲載してきた。世の人が必要とする情報を、必要とする時に提供することが、新聞社の大切な務めであると認識しているからだ。
 これからも、計量計測の視点から、意義のある事柄を伝えていく決意である

 

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