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日本計量新報 2011年9月25日 (2887号)

地方に色濃い計量行政の能力後退

 現代社会には、自らが掲げる存在意義・目的と実態が異なる組織が数多く存在する。計量計測の世界でも、実態がつまびらかになると困惑を呼ぶ組織がいくつもある。
 特に、計量行政組織にはそうした状況になっているところが多い。地方分権のもと、計量行政は主体者である地方公共団体が行うことになっているが、それが名目だけになっている組織が幾つも出現している。計量法に基づいた重要任務であるハカリの定期検査や特定計量器の検定を、実施する能力を欠く状態にあるのだ。
 計量法では、ハカリの定期検査実施にあたって、事業者を指定してこれに実質上代行させる指定定期検査機関制度がある。この制度が真っ当に機能しているぶんには問題は発生しない。しかし実際は、指定する側が知識と技術を持たない状態であったり、事業委託費用の確保などが不十分であったりと、万全な状況にはほど遠いのが現状であり、ハカリの定期検査が将来に渡ってきちんと実施できるのか危ぶまれる。
 組織の定款に真っ先に掲げている「計量思想の普及啓発」にしても、活動は十分とはいえない。一般の人々にこの言葉を語っても通じないことがほとんどであるし、会員自身の意識も明瞭でない場合が多い。まだまだ改善する必要があるといえる。
 
地方分権によって、計量行政の主体が地方公共団体となったのは良いとしても、その運営に重要な役割を担う知事や市長や地方議員は選挙にあたって、場当たり的に有権者に受けがよい福祉などの政策を掲げて当選する。新しい行政費用が次々に加算されれば予算は膨らむ。にもかかわらず実質は収入不足のために緊縮財政となって、どこかの部分が減じられる。あちらの県で検定所を廃止して計量を担当する人員も一人にしたという話を聞けば、その事例にならって自分のところでも削減するというように縮減予算に対応するため、計量行政の実質上の放棄を意味する体制が広がっている。
 主体者である地方公共団体が、国政の<RUBY CHAR="鼎","かなえ">の一つである計量行政を放棄すれば、やがて地方自治の崩壊、国の崩壊をまねく。
 
 大衆に迎合しようとする態度、大衆迎合主義をポピュリズムという。韓国の李明博大統領は「限られた国家財政で無差別に恩恵授与をして歓心を買う福祉ポピュリズムは決して問題の解決ではない」ことを繰り返し主張している。また、「多くの国の例が示すように、福祉ポピュリズムは財政危機を招き国家の将来はもちろん、福祉そのものも脅かす」と警鐘を鳴らしている。日本でも、国・地方公共団体ともに福祉ポピュリズムに走る傾向がみられる。福祉と名が付けば、内容を深く審議することなく税金がつぎ込まれる状態は、回避せねばならない。
 
 ある部分に予算が集中すれば、そのツケが計量行政組織と計量行政の実施に出現する。少額の人件費すら確保できずに、県の計量行政が担当者が一人で、しかも兼務であるという状況はまさに予算が偏って流れた結果である。票が欲しければ何でもする議員が多いから、国の政治も地方公共団体の運営もどこかに怪しさがついてまわる。
 日本経済と国民生活などの基礎の基礎である計量行政を真っ当に運営するために、その当事者と関係者は圧力に抗すだけではなく、その知識と知恵をもとに計量の重要性を説いて攻勢にでるほどの気概を持ってもいいだろう。

 

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