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日本計量新報 2012年4月22日 (2914号)

kgの定義変更による原器の新たな役割と不確かさ

困ったことである。「精密さ」のことを「不確かさ」というようになってから、計測の確かさのことが世の中に通じなくなった。このまま100年が経過しても今の状態は変わらないだろう。ものづくりの現場にいって「不確かさ」といえば、確かさのことを言っているようだというくらいの伝わり方をすることであろうが、精密さを追求する立場の者としてほとんど通じない言葉のやりとりに歯ぎしりすること必至である。科学の分野における計測の確かさのことも「不確かさ」という用語で語られるのでこれもまたまったくどうにもならない状態になる。

 計測の信頼性を定量化するのにこれまでは、「誤差(erro)」という概念を用いてきた。それを「不確かさ(uncertainty)」という概念で取り仕切っていこうというのであるから、その用語の珍妙さと馴染みのない概念に戸惑うのは当然である。「不確かさ」概念は、あるばらつきの範囲内に真の値があるものとして計測の信頼性を定量化した。「不確かさ」は「測定の結果に付随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」(不確かさガイドおよびVIM第2版、VIM3・09)と定義されている。これまであった誤差の概念は、「誤差」は「測定値の真の値から差」と定義されるもので、こうした定義に立脚すると、測定量の真の値がわからなければ、誤差はわからないということになる。計測の信頼性を定量化する場合の誤差概念は、計測の宿命とも思える要素を抱えていた。

 不確かさ概念は、1993年に計測に関わる国際度量衡局(BIPM)、国際法定計量機関(OIML)、国際電気標準会議(IEC)、国際標準化機構(ISO)など国際的な7機関が共同執筆の形をとって、ISOガイド「計測における不確かさ表現ガイド」ならびに「国際計量基本用語(VIM)第2版」として発表されたものである。そもそもの始まりは1977年に国際度量衡委員会(CIPM)が、国際度量衡局(BIPM)に対して誤差評価方法の検討を諮問したことに発する。諮問への回答として、作業部会がまとめた案をCIPMは1981年にCIPM勧告「不確かさ表現に関する勧告」として発表した。同じ勧告を1986年に再確認している。これが現在「ISO不確かさガイド」と通称されている文書である。

 このガイドは発表の前後から、今までの誤差評価の方法と大きく異なるため、議論を呼んでいたが、国内外の計測に関わる機関で利用の度合いが増加してきている。推進役の国際度量衡局が扱う国際比較や雑誌掲載の論文は「ISO不確かさガイド」にそった表記をしている。このガイドは、作業現場から基礎研究の場面にまでおよぶ計測に適用範囲をもつ。不確かさ概念はなじみにくいが覚えなくてはならないものである、とはいってもその現場計測と現場の技術者への普及は容易ではない。質量の単位であるキログラムは、国際キログラム原器という人工物から基礎物理定数をもとにして決められる方向に向かっている。国際キログラム原器がキログラムを定義する「原器」でなくなってもキログラム原器は御役御免にはならないだろう。引きつづき「不確かさ」の値がつけられた実用上の標準器として使用されるだろう。

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