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日本計量新報 2013年1月20日 (2949号)

食は家庭で作るのではない個食の時代とヘルス戦略

ついこの前まであったことである。住まいの付近には米屋があり、肉屋があり、八百屋があり、魚屋があり、生活に結び付く消費物資が歩いていける範囲で売られていた。都市では住宅団地に隣接して何々銀座といった商店街が形成されて、その通りは買い物をする歩行者でごった返すことが普通であった。この風景がいまも残る地域として東京都では砂町銀座などがある。商店街に出店する店舗は10年、あるいは5年を区切りにして大きく変わる。砂町銀座にとなりあわせて大きなショッピングモールができていて、ここには車で乗り付けて買い物と遊びをするようにできている。歩いての買い物客と車を利用する買い物客をともに引き込む構造がこの2つによって形成されているのは、いまの時代の反映といってよいだろう。
 外食産業が消費不況によって苦しんでいるなか、提供する商品の単価が安い牛丼チェーンなどの出店ラッシュがあり、ラーメン店の出店も目立つ。食卓を家族がそろって囲む風景がそれだけあるか。これもついこの前にあった風景とは違っている。
 安いお店での外食、個食がすすむなか、人の食のあり方、栄養の取り方に関心があつまっている。医食同源とは中国漢方の考え方である。人には痩せの体質、ふっくら体質など、さまざまな体質と体型があるので、それを標準体重という形でひとくくりにすることは正しいこととはいえない。食べることを芸にしている関西のある芸人は食べ過ぎたためであろう、1年前に比べると随分と肥えた。テレビにでてくるその人の太りぐあいに、それでは何でも太り過ぎだと驚いた。あれでは病気になる。高血圧、高脂血、高血圧と健康指標のすべてが高い値を示しているはずである。健康がノックアウトされ、食べ過ぎがいけない事であることを物語ること必至と判断される。テレビでその芸人の急激な肥満状況を見た医師はテレビの奥に手を伸ばして、もはやこれまで、と叫びたい衝動に駆られていると思われる。
 健康を計るから「ヘルスメーター」の名を付けた簡易型体重計は、体重を計っているだけであって、けっして健康を計ってはいない。それではと体脂肪計とか体組成計などの名前の「体重計」が登場した。計ることで健康に通じるいくつかの指標をつかみ取ることができるのはよい。しかしその数値によって示される指標に意志的に対応できる人がどれだけいることであろうか。計り記録しつづければ体重が減るという、一面での心理は人の意識の問題である。体重についても血圧にしても同様である。計って得られた指標としての数値が厳格に人の行動を抑制する命令をだして、人を縛ることができることが、望まれるが、そのようにする手立てがあるだろうか。
 それならばと、これを食べれば健康になるということで、食の提供をするようになった「ヘルスメーター」企業である(株)タニタの行動は見事である。この行動が日本人の食と健康への誘いとなって、これが大きく広がっていくようになれば素晴らしい。現状でもこの方面への影響と社会貢献は十分に評価できる。食と栄養の実践図書は日本のベストセラーになっており、その販売数は今なお増えている。課題解決とか、問題解決とか、英語でソリューションといっているシステムがあり、ここでは計測器そのものでそれをすると謳っている事例が多い。そういっておりますが、それは本当にソリューションですかと問うと、胸を張れるほどのシステムは実際には多くはない。そうしたいと思っているだけである、という程度のことで、ソリューションという言葉を使うから、問題と矛盾を内在してしまう。
 食そのものの提供という大胆な行動に打ってでて、食そのものを教育しようとする(株)タニタのヘルス戦略は世間の脚光を浴びている。食は家庭とともにはない。食は個であるから、個が食をつくらなければならない時代であるようだ。

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