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日本計量新報 2013年3月3日 (2955号)

家や家族をなくし、放射線に晒される震災被災者

「被災者が一番欲しいのは義援金である」と現地の声を伝えたのは野党議員で2月の国会予算委員会集中審議の場であった。仮設住宅などに入居している人々の集まりで議員と懇談をしているときに心の底を明かさない被災者の気持ちを支援活動をしているボランティアが代弁したのがこの言葉で、その発言につづいて被災者の大きな拍手がおきたと伝えている。家をなくし、家具をなくし、衣服をなくし、職場をなくし、船ほかの生産手段をなくし、家族を亡くし、友を亡くした人々が自らを奮い立たせるために「がんばっぺ」の言葉を合い言葉にして、押し潰される心を支えているのである。被災者の多くは何をするにもお金が足りないのだ。
 お金に相当する物資の支援は今なお求められている。新品・未使用の肌着、Tシャツ、クリーニングした防寒着、使っていない新しい台所用品などは、買えばお金がいるので、家庭などに眠っているそうした物資を現地に届けることはお金を届けることに等しい。それでも現地の人はもう一度義援金が欲しいのが偽らざる気持ちである。子供にその小遣い銭をわたせない親や祖父母の気持ちを汲むのが人の情である。
 震災から2年が経過する現在、津波被害を受けた現地のようすはどうであろうか。石巻市の旧北上川河口に立地する日本製紙の工場と石巻駅、そしてここから仙台に通じる鉄道交通が2月15日に復旧して旧来と同じように仙台までの6便の貨物列車が走るようになった。NHKテレビでこの報道に接すると被災地の復興が一気に進行しているように錯覚させられるが、青森県の八戸から福島県あるいは千葉県の沿岸部まで日本列島の太平洋側を南西に走る海岸線は、破壊された家や施設が撤去されて赤土がむき出しになった平原のままである。海辺の平地には何もない。
地震、大津波と連動して発生した原発事故による放射線物質の飛散とその測定はどうなっているか。放射線測定の確かさに疑いをもたれていて、測定したいという普通の人々、あるいは地方公共団体の職員から、どの測定器でどのように測ればよいかと聞かれても、応えようがないというのが被災地の計測器販売や環境計量証明事業者の率直な話であった。一部ではトレーサビリティのとれた求められる放射線濃度測定がおこなわれていることではあっても、多くの場合にはそれ以外の測定になっていて、何らかの方法で手にした測定器の測定性能にだけ依拠しているのが現実である。ある測定事業者は「役所が使っているのを借りてきて使え」と答えるという。これであればその役所の測定との間でトレーサビリティはとれている。しかし役所の測定器が求める測定機能を備えていなければ、すべての測定の意味が大きく減じることになる。

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