計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2013年3月  3日(2955号)  10日(2956号)  17日(2957号)  31日(2958号)
社説TOP

日本計量新報 2013年3月17日 (2957号)

規模は違っても津波は必ず発生し低地の町を海水でも満たす

大きな地震だ。何とも大きい。これはただ事ではない。しかしどうしよう。テレビは地震が起きたことと、津波来襲の危険を報じて、避難を呼びかけている。とにかく大きな地震だった。津波は来るかもしれない。テレビは津波の大きさを4mなどと報じている。このようなことは1年ほど前の冬季オリンピック中継を見ているときにもあった。そのときには津波は来なかったではないか。テレビアナウンサーは逃げろ逃げろと叫んでいるが、これはいつものことであり演技にも似ている。そのうちテレビは八戸市の湾岸に押しよせる津波を映しだした。釜石港から街中に走り出した津波を映しだした。海に近く名取川に沿った仙台空港の滑走路を海水が満たし空港建家の2階付近までそれが駆け上がった。
 このとき宮城県女川町の女川漁港には如雨露(ジョウロ)のような構造をした湾の向こうの水面が持ち上がり大きな波頭が白波を立てて市街地に侵入してきた。石油貯蔵タンクは浮き上がって街中を走る。海辺の3階建ての鉄筋コンクリート造りの建物は土台が壊れて波に浮く。2階建て民家の屋根上まで覆い尽くした海水は道路を黒煙を交えて山の方に駆け上がっていく。先が狭くなった谷地を這う水はJR石巻線女川駅を埋めて、奥まった高台の役場庁舎の2階部分を荒らし回った。引く波は壊れた家と人を巻き込んで沖にさらっていったのである。女川漁港の魚市場に設置されていた分厚い鉄材でつくられた荷物を積んだ車両ごと計量するトラックスケールは水の力で浮き上がった。波と一緒に動いてきたフォークリフトが浮き上がって、悶えているこのハカリの下に潜り込んだ。海辺で昔から営業してた散髪屋の主人はこの波と一緒に消えてしまった。
 それから2年、女川町の3階建て町役場庁舎は撤去され、女川駅のそばにあった5階建てのコミュニティーセンターも姿を消し、その奥にあった5階建てほどの数棟のアパートも撤去された。このアパート付近から撮影した女川港と市街地の繁栄した街並みも跡形なく消えてゴロンと転がった3階建ての鉄筋コンクリート造りの建物があるだけで、海の上にある太陽が細かにめぐらされた道路を白く照らしている。この道路に人影はない。ときおり自動車が通り、高台にある町立病院の丘では被災支援のボランティアの数人が所在なげに海を見る。
 岩手県の山田町と大槌町は中心市街地が壊滅した。大槌町では庁舎を襲った津波で町長が死んだ。この2つの町の境に標高610mの鯨山という山があり、「昔、大津波の時に雌鯨と雄鯨が潮のまにまに寄せてきて、2つの山(鯨山と小鯨山)にとどまった」という伝説がある。山田町の海岸部に住むある男は津波に追いかけられているときに、その話が何度も去来した。そして明治の大津波のときに曾祖母を背負って逃げる祖父が曾祖母の「オラをおいて逃げろ」の言葉どおりにしたことで生きながらえたことを思い出した。三陸沿岸の人々は、実際に明治と昭和の大津波を経験し、このことを語り継いでいるのに、なぜオレはこうなっているのかと、打ちひしがれる。
 日本時間2011(平成23)年3月11日14時46分18秒を境にして、日本人は第2の敗北をした。科学と知識を学び工業製品をつくり、これを世界に売って1億2千万人の力は世界第2位の経済規模を実現していた。それが青森県八戸市から千葉県旭市までの太平洋に面した海辺の低地を海水で満たし、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の家屋と工場施設などを打ち壊した。震災から2年が経ち、山田町の中心市街地にはコンビニエンスストアとスーパーマーケットがわずかに営業している。建物のなくなった跡は間延びした広場になっていて、魚市場には定置網の漁船がわずかの魚を朝と晩に水揚げする。波が押しよせてきて2年経って変わったのは家屋のすべてが取り除かれて綺麗さっぱりしたことだけだ。
 第2の敗北をもたらした文明とはこのようなものであったのだ。浮かれた人々が洪水に飲み込まれたノアの方舟伝説と同じではないか、とある男は思った。明治にも昭和にも大津波があってこの怖さを知っているのに、低地の平場に町をつくったのは間違いであった、とも。岩手県宮古市の田老地区につくられた海抜10m、総延長2433mの防潮堤は波に乗り越えられ、そして破壊された。山田町の堤防も同じことであった。海辺の施設は津波がきたら捨てるしかない。命を全うするために地震が起きたら高台に駆け上がって避難することだ。工場などの施設は高台につくれ、低地の施設は捨てる、海辺には避難用の高層物を造っておく、この方式でやっていくしかない。この地震の発生は、安全だとうそぶいていた東京電力福島第一発電所の炉心に異常をきたし、放射性物質を大量に撒き散らし、高濃度汚染された近場の町の住民は退去し、遠く離れた県庁所在地の福島市でも自主避難する人がいる。2011年3月12日3時59分15秒に長野県北部の新潟県との県境付近で発生した逆断層型直下型地震によって、長野県栄村では建物に大きな被害がでた。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.