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日本計量新報 2014年3月2日 (3001号)

計測はほどよい正確さを神髄とするがUncertainty「不確かさ」とは何だろう

Uncertaintyという言葉を世界中に広めた人がジョン・ケネス・ガルブレイスである。アダム・スミスから約200年、経済思想は現実の政治・社会とどのように関わってきたかを問い直すことを通じて、現代資本主義の本質に迫ろうとしたガルブレイスの日本語の本の名前は『不確実性の時代』であり、英語は「The Age of Uncertainty」のタイトルだ。この本は1978年に日本でベストセラーになった。「Uncertainty」は「不確実性」と日本語で表現された。ガルブレイスは資本主義経済がどのように進むのか諸条件をだして問うのであるが、普通の人にはその解はみえない。
 日本人が使う言葉は和語、漢語、英語、外国語とが混交している。漢字の発音だけみても呉音、漢音、唐音、宋音などがあり、呉音は仏教と医術方面に多いが、「老若男女」の発音は「ろうにゃくなんにょ」であるが、「ロウジャクダンジョ」とパソコンに入力すると漢字変換した上で正規の読みを添える。「不確実」とは、「確実でないこと。はっきりしていないこと。また、そのさま。ふたしか」と国語辞書にある。「不確実性」とは、「一般に、不確実性とは、意思決定者のコントロールし得ない事象の生起の仕方にさまざまな可能性があり、しかもいずれの事象が確実に起こるか判明しないとき、その意思決定者の不確かな気持ちをさしていう。決定理論では、確実性のもとでの意思決定、リスクのもとでの意思決定、不確実性での意思決定の3つに区分される」とある。
 経済用語としての「不確実性」すなわち「Uncertainty」は、「思わぬ僥倖(ぎようこう)によるキャピタル・ゲイン,天災,災害,不測の事故等,われわれが経験する不確実性のタイプには,大きく分けて二つのものがある。第1は,問題の事象がおこるかどうか,前もって確実に予見することはできないが,その事象がおこる確率は客観的に確定していて,しかもその確率の値が事前にわかっている,というケースである。すなわちその不確実性,すなわちその事象のおこる可能性が既知の確率もしくは確率分布をもって定量的に表しうるような状況,したがって確率的不確実性と呼びうるケースである。」
 「確か」は漢字をあてはめた和語の「たしか」である。その意味は、「@危なげなく、しっかりしているさま。A信頼できるさま。安心できるさま。また、確実であるさま。B働き・能力が正常であるさま」である。和語の「たしかさ」、漢語の「確実性」、英語の「Certainty」には意味の共通性があり、その前に「不」を付けたり、不と同じ意味の「un」を付けると逆の意味になる。計測分野では「確かさ」のことを「不確かさ」という用語を使う。絶対に確かなことはないから、その不確かさの程度を確かめる、ということだと考えてのことであろう。そうした計測の概念は、日ごろ日本の人々が使っている「確かさ」あるいは「不確かさ」とは上手く重ならない。
 日本には「正確さ」をあらわす「精度」「精密度」「誤差」ほか、多くの言葉があり、「精度」が一般的で「誤差」も普通に用いられる。英語の「Certainty」が精密さの概念で用いられることに驚きを覚える。その用語に「確実性」ではなく「確かさ」という言葉を当て、さらに冠頭に「un」が付いたから「不確か」であると決めると、多くの日本人はこの言葉意味を理解できない。計測の神髄は「ほどよい正確さの確保」である。テレビモニターの対角線の長さを0.01mmの単位で整えることなどは労あって実がない。湯飲み茶碗の内径にしても同じことであり、上記の寸法の許容範囲で製造することなど無意味だ。
 工業分野では測るモノ、測る場所に応じた適正な精密さとそこに許容される誤差がある。「徹底した品質管理」によって製造した商品というのは、力んだ表現として可愛くみえてもこれは詐欺的表現である。計測に関係して、国際標準と国の標準と連動した精密さの流れのなかにあって、測るモノと場所ごとに求められる精密さの度合いがある。「徹底した品質管理」をしているとする商品にあっては、国際標準などが実現している普通の状態ではだせない精密さや不確かさをもつ計測器を用いたうえに、検査は10回も20回もしているということなのだろう。あり得ないことであり、してもいないことであるから、詐欺的表現といわざるを得ないが、日本人の意識がそうなっている現実は嘆かわしい。
 モノをつくりだすしくみを巧みに創り上げてれば検査はいらない。万が一のために少しだけ抜き取って検査をして創り出すしくみの機能を確認することがせいぜいである。その創り出すしくみにおいては計測は肝を押さえてなされているのだ。   
 「不確かさ」とは何かと問われたある計量協会の会長は「確かでない様」と答えた。日本語の解釈としてはよい答えである。一般に通用させることが不可能と思われる「不確かさ」という用語が背負っている重しはきつい。精密さの概念、誤差の概念から抜きでないものであれば、上手に使い回すことが得策であるように思われる。また工業分野ほか一般的な計測の分野にこの言葉を持ち出しても意味は通じない。必要な人は「不確かさ」とその出し方などの知識と技術を修得すればよいことになるが、これの理解をまともにできる人は少ない。そのような事情に対して「不確かさ」を上手に処理するコンピュータと連動したソフトウエアがつくられるのではないか。また「不確かさ」概念とまともに連動する計測器、計測標準器にはそのソフトウエアが備えられて、自動的に作動するようになることも予測される。

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