計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2014年3月  2日(3001号)  9日(3002号) 16日(3003号) 30日(3004号)
社説TOP

日本計量新報 2014年3月9日 (3002号)

福島原発の誤操作による温度計破壊などは何故おこる

炉心溶融によって放射線を大量に排出する事故をおこした東京電力福島大地原子力発電所に近隣する地域の住民は、元の住まいにもどって生計をどのように営むのだろう。直近の大熊町、双葉町、風に乗って多くの放射性物質が舞い降りた飯舘村、それよりも近い浪江町、大熊町の南にある富岡町、楢葉町の住民の3割ほどは汚染された地域での生活を選択しない。福島第一原発関連で働いていた人の数は6000人ほどであり、直近の町の成り立ちの基礎に原発があったのだ。これがなくなった後の高濃度の土地と汚染された海でどのように生計を立てていくというのか。
 止まることのない地下水は炉心付近を流れて放射能汚染される。流れ込む汚染水を汲み上げて貯蔵しているのだ。数を増す貯蔵タンクは汚染水を入れておくのに構造上の怪しさがある。ここで作業する人々は安全とされる被曝量を超えない状態であっても、心中は「やられているもう駄目だ」と思っている。汚染地域に戻って生活するということは、いくら安全宣言が出たとしても、同じ気持ちになるに違いない。
 東京電力の発表として福島民友新聞は「福島第1原発で汚染水をためている地上タンクの上部から、汚染水約100トンが漏れたと発表した。汚染水からはストロンチウム90など透過力の比較的弱いベータ線を出す放射性物質が1リットルあたり2億4000万ベクレルと極めて高い濃度で検出され、タンクを囲む堰(せき)の外に流出、土壌に染み込んだ」と、2014年2月21日(金)に配信した。汚染水の濃度は「汚染水の近くに1時間いると、定められた年間被曝量に達する」ほどである。汚染水漏れの原因を東電は作業者のバルブの誤操作であるという。この発表も一度目の原因不明を訂正してのものであり、バルブを正常に操作したように見せかけた痕跡がある。
 作業者の誤操作による事故が同じ時期にもう1つおきている。東京電力が発表したものとして、「19日、福島第1原発2号機の原子炉圧力容器の底部に設置する温度計2台のうち、作業員が1台を誤って壊したと発表した。圧力容器の底には原発事故で溶けた燃料がたまっており、冷却状況の監視が十分できなくなる恐れがある。東電によると、作業員が18日の温度計の点検で絶縁状態を調べた際、電圧100ボルトをかけるところを誤って250ボルトにし、壊したという。壊れた温度計は2012年10月、外部から配管を通して圧力容器内に挿入した。圧力容器内には計11台の温度計があるが、9台は上部にある。底部には壊れた温度計を含め2台しかなかった。東電は早急に新たな温度計を設置する予定。ただ、現場の放射線量が高く配管が複雑なため、試験設備を造り訓練した上での対応となり、設置時期は未定としている。元原子炉設計者で芝浦工大非常勤講師の後藤政志さんは「『温度計は人間でいえば目に当たり、原子炉内部の様子を示す測定値の中で最も重要だ。新たな温度計を設置するまで関連する測定値を慎重に見極める必要がある』と指摘した」と河北新報などが2月20日付けで報じている。
 誤操作をした作業者が東電職員であるか外部に委託した者であるか、なぜそのような誤操作がなされたのか、今後そのような誤操作がなされないために何をするのか、などの対策は報道にはでてこない。原発事故直後から報道関係への発表をしてきた東電職員が事故後3年を経過して、白髪が増えて頬がこけた状態で登場している。こうした報道は事故対応などの指揮権を持った副社長ほどの人をその任に当てるべきだ。バルブ操作の誤り、温度計点検操作の誤りによる結果の大きさをどのように見積もるのだろう。
 大津波によって電源喪失に陥ったのと同じ現象がその後におきている。安倍晋三首相の東京へのオリンピック招致の演説にそれが現れている。「状況はコントロール下にある。私が安全を保証します。状況はコントロールされています。汚染水は福島第一原発の0.3km2の港湾内に完全にブロックされている。福島近海でのモニタリング数値は、最大でもWHO(世界保健機関)の飲料水の水質ガイドラインの500分の1だ。健康に対する問題はない。今までも、現在も、これからもない」というものである。東電は偽ってでも安倍首相が宣言した状況を示さなければならない。「安全だから安全だ、そして大丈夫だから大丈夫だ」という、思考停止がここにはある。「美しい国日本」という安倍首相の言葉は今となっては可愛さがあるのは皮肉なことだ。「福島原発の誤操作による温度計破壊などはなぜおこる」かの回答は賢明な計量計測関係者には容易なことであろう。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.