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日本計量新報 2014年7月13日 (3017号)

上高地の景色を現実にする写真のすごさと計測への利用

 石原裕次郎は映画『黒部の太陽』の興行に失敗した。ドラマそのものだけで観客を呼び込もうとしたからだ。裕次郎の青春映画が受けたのは都会の香りと格好よさ、はなやかさによるものであった。黒部ダム(黒四ダム)と室堂に大勢の観光客が集まるのは黒部渓谷と立山連峰の別天地のような雄大で美しい景色があるからなのだが、これを映画に盛り込みきれなかった。『黒部の太陽』の上映の後に黒部ダムには人が押し寄せたから、皮肉だ。
 2014年6月14日から東宝系で上演されている映画『春を背負って』は、立山連峰の雄大な雪景色のなかで繰り広げられる人間ドラマの仕立てになっており、木村大作監督の前作、09年公開の『劔岳点の記』と同様に興行に成功するであろう。映画のキャメラマンであった木村大作氏が監督する映画は小説などの物語に題材をとってドラマの基本はここにおいている。ドラマを日本の美しい自然のなかで演じるという映画のつくりは、『黒部の太陽』に学んでのことである。
 室堂平からぐるりと仰ぎ見る立山連峰の景色は絶品である。河童橋と穂高連峰がおりなす景色は日本の絶景地であり、カレンダーの挿絵に使われるナンバー・ワンの景色だ。ここでの人々の有り様はというと、携帯・スマホ・タブレット端末での写真撮影であり、コンパクト・デジカメともども手を前に出してモニターを見て、パチリの音に日本語や外国語がごちゃごちゃと混じる。
 フィルムカメラの時代に「写真はレンズで決まる」というキャッチコピーがあった。デジカメの時代には「写真は画像エンジンで決まる」ことになる。どのように画素数が多いイメージセンサー(これはフィルムに相当する)でも、ここに届く映像はモヤモヤとしている状態であり、これを画像エンジンで形を整え、色をつけ、輪郭を際立たせる。像を独自のソフトウエアによって処理して、好ましい状態にするのが画像エンジンである。キヤノンは画像エンジンに番号をつけていて、この番号が増えるほどに絵が綺麗だ。
 細密になり綺麗になったデジタル写真の映像は映画の大画面に負けない。超大型のテレビ画面に細密なデジタル画像を映し出すと、上高地の河童橋と穂高連峰の景色が、まるでそこにいるような現実感を実演する。この画面にCD音源の5倍ほどの高品質の音情報をもつハイレゾ音源から川の音とウグイスやカッコーの鳴声を添えたら、その場はまさしく上高地になる。
 デジタル写真に重要な要素であるイメージセンサーとは、受けた光を電気信号に変換する働きのあるCCDやCMOSなどの装置(半導体)のことをいい、撮像素子ということもある。これはフォトセンサーとも呼ばれる小さな素子(フォトトランジスタ)を多数並べて光の像を検知し、それを電気信号に変換する。フィルムカメラでいえばフィルムの役割を果たしている。このイメージセンサーは、多くの計測に使われ、また顕微鏡などはカメラそのものであるから、これを用いる。監視のための用途などに広く用いられるようになった。
 写真の用途は広い。デジタル写真は携帯で間に合う時代である。携帯電話は写真機である。撮影した写真がハードディスクに記録されるのは良いとしても、そのハードディスクから写真を引っ張り出すことをする暇(いとま)は人にはない。限られた時間に空気を吸い、限られた時間を生きている人は、印画されアルバムに貼られた写真の数だけを思い出とすることができる。便利だからとハードディスクやパソコンに記録された写真はゴミになる。

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