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日本計量新報 2014年9月21日 (3026号)

科学の成功を世にうたった「はやぶさ」の計測ミス

 イオンエンジンで宇宙を飛行し、機械の故障から絶望的な状況にあった、小惑星探査機「はやぶさ」が、小惑星「イトカワ」の粉塵(岩石)を回収して地球に戻ったことは快事であった。その「はやぶさ」に積載された蛍光X線分光器「XRS:X−Ray Spectrometer)」で分析した、「イトカワ」の蛍光X線データにより、「イトカワ」の元素組成が地球に多く飛来する隕石(普通コンドライト型隕石)と同じであるとして、その研究成果を米国の科学専門誌「サイエンス」に、「イトカワ」が帰還する前に発表していた。
 「はやぶさ」が持ち帰った小惑星「イトカワ」の粉塵(岩石)は、その組成が通常の隕石と同じ成分であったことが、岩石の分析によって判明している。「はやぶさ」地球帰還は2010年6月のことであった。そして「はやぶさ」に積載の蛍光X線分光器によって、「イトカワ」近傍でリモートセンシングをしたのは2005年9月から12月である。この観測による「イトカワ」表面の元素組成のデータと普通コンドライト型隕石のデータが同じであると観測班は結論づける論文を2006年6月2日付の「サイエンス」に発表していた。
 ところがその後に同じタイプの観測機器に不具合が見つかったことから、「はやぶさ」に積載の観測機器にも同じような不具合があり、またその観測データは雑音(ノイズ)に属するものでも同じような結果を示すことがその後に判明している。得たい信号が微弱で、雑音の割合が大きすぎることから、そこに出現する信号が当てにならないことになった。
 「測定」したつもりで得た測定値などのデータが想定した内容とあまりにも似ていたことから、信頼してはならないデータを元にして、その観測値を示して普通コンドライト型隕石と「イトカワ」の組成は同じであると結論づける論文を発表していた。
 宇宙航空研究開発機構は、2014年8月29日に説明文を用意してその論文を撤回することを発表した。宇宙航空研究開発機構の研究評価委員会は、2014年7月に「論文の主張は、妥当ではないと判断する。したがって、論文は撤回されるべきである」という措置を決めていた。論文の著者らからは2014年8月16日に、論文を撤回する意思が宇宙航空研究開発機構宇宙研所長に示されていた。
 リモートセンシングに関係する一連のことがらについて、欠落していたこと、なされるべきことは何であったか。計測の専門家は何を考究するか。
 なお宇宙航空研究開発機構が発表した内容は次に示される。
 http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2014/0829_hayabusa
 http://www.isas.jaxa.jp/j/topics/topics/2014/image/0829/attachment.pdf

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