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日本計量新報 2015年10月4日 (3075号)

理念を説かないとマニュアルは死んでしまう

ある牛丼チェーン店で食事をするとその牛丼がずいぶん塩辛(しょっぱ)くて、食べ残して店を出た。その後にこのチェーン店の味を点検していると店によって差があることがわかってきた。レストランチェーン店で食事をするのはその味が大体は想定の範囲におさまっているからだ。田舎の食堂で思いもよらない大きなトンカツがのったカツ丼がでてくると儲けたと思うので、こうした食堂に足を運ぶのは面白い。そして裏切られてやはり駄目か、と自分を慰める。
 肉の味、魚の味、野菜の味、果物の味、菓子の味といった美味しさの保証に関係するのはブランドである。菓子類はお店の名前で味と価格が決まっている。デパ地下の食品売り場の味はデパートの名誉をかけたものであるから信用できる。歳末商戦が真っ盛りの露店で卵のないオスのシシャモを売りつけることがある。信用などどこにもない商法だから寄り付いてはならないという人もいる。
 コーヒーショップのチェーン店がさかんに店舗を増やしている。店員の決まった応対で決まった味を提供する。この決まった味は特別な味のコーヒーショップには劣る。とはいっても特別に美味なコーヒーショップは探さなくてはならないから、次善の策としてチェーン店を利用する。そして決まった応対と決まった味で了解しておく。コンビニチェーン店の店員の決まった応対とコーヒーショップの決まった応対を受けていると、これをさせているのが応対の手順書としてのマニュアルの実行であることをいつも思う。多くの店員は客の気持ちを汲んだうえでマニュアルに従った対応をしているのには感心させられる。これこそは日本人の心遣いであると喜ぶ。ところが客の気持ちはそっちのけでマニュアルどおりのことを客に押しつけ、「すみません」と言わず、ニコリともしないのがいる。これは駄目になった日本と日本人の見本である。
 マニュアルというのは店の商売繁盛のために顧客への対応方法を決めたものである。ところが商売繁盛と顧客への心ある対応はそっちに置いて、決まり切ったマニュアルどおりにしないと気が済まず、顧客をマニュアルのなかに押し込めた行動を取らせる店員がいる。そのようになってしまうのはマニュアルができあがる前提としての顧客へのもてなしの心を忘れていることによる。
 企業が社会のためになり、人の役に立って稼ぎをあげるということと、役所が人のために行政サービスを提供するということ。この2つは同じことだ。そうした人のためになる方法をマニュアルとして決めることがなされる。企業でも行政機関でも世のため人のためということを忘れて、マニュアルを優先させ、ひどい場合にはマニュアル至上主義の行動をとる。マニュアルを覚えてもマニュアルをつくった心を忘れると世のためにも人のためにも自己のためにもならない結果を招く。モノの本質を考えずに行動している者が陥る。よって、マニュアルを示すこととあわせて、理念を繰り返して何度でも説くことが大事であるといえる。理念を理解しないでマニュアル行動をしているといつしか理念から大きくずれていることが多い。そのため、マニュアルなど示さずに理念だけを説く方法があるが、これでは今の日本人は行動できない。

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