計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2017年10月  1日(3166号)  8日(3167号)  22日(3168号) 29日(3169号)
社説TOP

日本計量新報 2017年10月8日 (3167号)

日本の計量行政と計量法の施行の状態

 日本の計量制度はどのような仕組みになっていてどのように機能しているか。日本の計量制度は計量の安全を確保するための法律である計量法に基づいて施行されている。計量の安全の確保とは「適正な計量の実施を確保する」ことであり、このために検定制度が設けられている。質量計(はかり)においては2年に1度の間隔で検定時の器差の2倍の範囲を超えないことを定期検査を実施して確認している。適正な計量の実施の確保のために世界と共通する単位制度を敷くこととそれへの対応を随時おこなっている。これが日本の計量制度とその実施のための骨格である計量法のあらましである。

 計量法が法として関与する分野は取引と証明に関与する分野に限定される。取引と証明とはおおまかには商取引と考えればよい。証明の分野は少し複雑だが「事実が事実である」ことを確認する計量行為だ。

 取引と証明のために用いる計量器はその昔はすべて検定に合格したものでなければならなかった。計量器の性能が安定したのと意図した不正が極小であることから多くの計量器は検定制度から除外された。多くの計量器は検定を受けないで取引と証明のための計量に用いることができるようになった。現在、検定を受検することが義務づけられているのは特定計量器として指定された20ほどの計量器である。20ほどの計量器といっても1器種ごとにいくつもの種類がある。身近な特定計量器にはハカリ(質量計)、ガソリン計量器、水道メーター、各種ガスメーター、電力量計、血圧計、体温計などがある。あまり知られない特定計量器としては酒税にかかわる浮ひょうがあり、取引と証明にかかわって計量検定所が実施する検定を受検し、これに合格したものが使われる。このような特定計量器が幾つかある。

 計量法と計量行政を主管する役所は経済産業省の計量行政室である。計量標準と計量技術を担当する国の関係機関は産業技術総合研究所である。計量法が自治事務に変わってからは計量行政に直接に責任を持って担当するのは都道府県知事である。知事のもとには計量行政事務を担う計量検定所などが組織されている。都道府県知事の責任で特定計量器の検定とハカリの定期検査を実施する。ハカリの定期検査は都道府県内の計量事務を分掌する政令市など特定市が実施を担当する。

 特定計量器に指定された計量器の検定は大量生産方式のものはメーカーが計量法の仕組みに従って自己検定することが普及している。この仕組みが指定製造事業者制度である。都道府県知事の権限で特定計量器の検定をする事例は多くはない。都道府県知事は指定製造事業者が計量法の規定に従って計量器の自己検定をしているかどうかを確かめる業務を実施している。ハカリの定期検査は都道府県と特定市で分掌している。

 ハカリの定期検査の実施の主体は都道府県知事であるが、計量法が規定した指定定期検査機関制度によって民間事業者という立場にある都道府県の計量協会や民間の検査事業者を指定してハカリの定期検査を実施させている。ハカリの定期検査は計量士が代行検査という形でこれを実施できる。計量法が古くから規定していて運用されている制度が計量士によるハカリの代行検査であり、一定数の計量士は法人組織をつくってこの業務をおこなっている。計量士による代行検査の実施割合の大きな地方公共団体がある。

 計量法の規定に従って計量行政が実施されており、その内容の主たるものは計量器の検定とハカリの定期検査である。計量器の検定は指定製造事業者制度によってメーカーが自己検定をするといってよい状態である。これは全てではなく検定所による検定も今なお多い。ハカリの定期検査は計量検定所あるいは計量検査所の名を冠した地方計量行政機関が実施することになっている。これも多くは指定した定期検査機関が実施している。

 このようなことから都道府県知事と市町村の特定市における計量行政にかかる実務は大きく減っている。減った分だけ人員にかかわる予算が減少している。人が減ると行政組織の実態が見えなくなる。担当職員が一人か二人でそれもほかの行政実務との兼務になっている事例が少なくない。ハカリの定期検査に要する費用は公務員が直接に行っても民間の者が行っても変わらない。この費用が極度に減少している。

 計量行政事務を担当する職員が減り専門知識保有もおぼつかない状態に陥っているところがある。計量法の規定に反する事務(実務のこと)の実施がみられる。取り返しがつかない状態にある。人が減れば知識も減る。適正な計量の実施の確保への責務が怪しくなる。苦しい状態にあっても計量行政に意欲をもって取り組んでいる計量行政職員は多い。ハカリの定期検査の実務を担っている指定検査機関の職員の労苦に行政機関をはじめ社会が目を注がなければならない。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.