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それからのメートル法−ヤードポンド圏からの離陸支援を−   多賀谷 宏              

切換に必要な政策的な配慮 

 

 度量衡単位の切換に際しては国家プロジェクトとして全政治権力を集約して、取り組まなければならない。また度量衡単位切換の具体的総合計画の策定時には、対象が国民の基盤を成す一般市民層であるだけに、あらゆる階層の人の知恵を借りなければなるまい。具体的に言換えれば単に自然科学分野に止まらずに人文科学分野の研究者層の協力が切換のスムーズな推進のためにも絶対に欠かせない。しかもその中には心理学者や芸術家、時には漫画家やイラストレーターも含まれるべきであろう。 

 またこの度量衡単位の切換に際しては、決してモノトーンの推進策を強行すべきではなく、公的分野と私的分野をキチンと区分けし、切換の主対象を公共分野にしぼるべきであって、まちがっても私的分野に強権をちらつかせるような事は避けたい。一律の強行策は成功をもたらさないばかりでなく無用の反発や抵抗を招くだけで、それが公益を確保することにはマイナスに作用するだけである点に留意すべきであろう。

◇メートル法の強制使用ないし専用化の対象として強力に推進すべき公的な分野例:
行政、交通(陸・海・空)、教育、研究、建設、道路、橋梁、港湾、通商貿易公的な流通市場(デパート、スーパーマーケットなど)、国防(NASA等の政府調達を含む)、産業(一部に猶予を考慮) 優先的切換対象世代:軍18〜25才、公務員22〜50才、研究教育22〜50才
◇メートル法への切換を当事者に委ねるか、または旧い慣習単位の継続使用を猶予すべき私的な分野例:
民族行事、祭祀、宗教、個人消費、娯楽、スポーツ、伝統芸能、趣味、芸術活動私的な流通市場(リサイクルショップ、行商、産地即売などの伝統的市場等)配慮を要する世代: 60才代以上の中高年齢者層 

 これに関連して日本の旧尺貫法やヤードポンド法からの切換度合いを例として言えば、私的な面ではメートル法導入100年後の現在でも、一部の分野たとえば貴金属、絹製品、 ゴルフ、和裁、嗜好品などの私的な面で、尺貫法やヤードポンド系などに属する旧単位が、なお慣行的に活き続けているケースも若干残ってはいる。しかし公的な分野では、ほぼ完全に払拭されていると言ってよいだろう。        

 「世代交代」効果と優先的対象世代(若年層)の相関 
 いずれの国においても最終的な度量衡単位切換の達成には、国民の内の中高年の最大多数層もしくは各分野の社会的実力者層の世代交代を待つしか無かったというのが歴史的現実である。ある意味では気の遠くなるような長い時間を要するという事になる。そのためにはまず公的な分野からの切換という政策的アクションを、数十年後の社会的実力者層を担うはずの、上に記した次世代を担う若年層つまり優先的切換対象世代から、まづ起こさないない限りこの「世代交代システム」は起動されないものである。 

 アメリカ・イギリスとも既に若い世代には後に述べるように、いわゆるIT時代の到来 が先進国間の庶民の直接交流を活発化し、これがモノや情報の往復とともにメートル化の浸透に寄与しつつあるという好ましい兆候が、ここ数年来みえはじめている。しかし楽観は禁物である。たとえば蘭などの植物の品種改良などで聞く話に、せっかく途中まで改良に成功しながら環境条件の設定にミスが入ったため、元の品種に逆戻りしてしまうことがあるようでこれを‘先祖がえり’と言うらしい。せっかく整備された初等中等教育でメートル法の素地が育てられたとしても、成人になった時、旧単位でガッチリ固められた社会構造にはめ込まれ、周囲にある圧倒的な旧単位制の計測機器と計測システムに埋まって、止むを得ず‘先祖がえり’ということもじゅうぶん有り得る話である。この逆戻りを確実に遮断できるのは、「慣習や伝統の尊重といっても、それはあくまでも実害を及ぼさない限りのもの」だとする、言い換れば真の公共的利益を優先確保するための国家としての意思表示、すなわち政策手段としてのメートル法専用(義務化)しかないであろう。

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